第62回日本生物工学会大会(2010)では、大会2日目の10月28日(木)に開催されますシンポジウム「食の機能・安全を科学する-おいしさから生理活性、安全性の評価まで」の総合討論のセッションにおいて、宮崎県における口蹄疫感染に関して後藤義孝先生(宮崎大学農学部獣医学科)より話題提供をお願いできることになりました。

直接お話をお伺いできる貴重な機会ですので、是非多くの方に会場にお越しいただけますよう、よろしくお願い申し上げます。

日時: 2010年10月28日(木) 17:55~  
会場: D会場 ワールドコンベンションセンターサミット 3F (海峰)
講師: 後藤 義孝先生(宮崎大学農学部獣医微生物学教室)

講演要旨

2010年4月に宮崎県で口蹄疫が発生した。10年前にも宮崎県と北海道が口蹄疫の惨禍に見舞われたが、その時の宮崎県では4軒の畜産農家と36頭の牛が犠牲となり、被害総額は36億円に達した。しかし今回は1,000戸以上の畜産農家が壊滅的被害を受け、約28万8千頭の牛と豚が殺処分された上、県内の観光はじめさまざまな産業にまで被害が広がるなど、日本の畜産史上最大の災害となった。2010年8月に宮崎県の行った試算によれば、畜産関連産業が回復するのに約5年を要し、地域経済の被害総額は2,350億円(うち畜産1,400億円)になるという。

口蹄疫は口蹄疫ウイルスの感染によって起こる急性の熱性伝染病である。シカやイノシシなどの野生動物を含む偶蹄類動物にみられる。口蹄疫は、感染力が強いウイルス性の水泡性疾患である。幼獣の死亡率は高く、とくに子羊と子豚では顕著である。発熱とともに口や蹄、乳房などの周辺の皮膚や粘膜に水疱が形成される。幼獣では発育障害、運動障害のほか死亡する例もある。成獣での致死率は高くないが、感染力が強く、短期間で感染域が拡大し、経済的被害が甚大なことから、国際的に最も重要な家畜の伝染病として、その制圧が図られている。

今回、宮崎県で口蹄疫がこれほどまでに拡大してしまったのは、

  1. 感染家畜の発見の遅れを含め防疫システムに不備があった
  2. 豚への感染拡大によってウイルスが爆発的に増加した
  3. 埋却地が確保できないため処分が遅れた

ことなどが大きな原因であろう。さらに、法律(家畜伝染病予防法)が現在の畜産経営に対応できなくなっていたために、本来ならば科学的根拠に基づいて行うべき『防疫業務』に政治が介入し(介入せざるを得なかった部分もある)、畜産農家をはじめとする関係者が振り回され、現場が混乱したことを指摘しておきたい。

今回の口蹄疫災害によって宮崎県およびわが国の危機管理体制が充分でないことを我々は思い知らされた。約100日間のウイルスとの戦いを通じて明らかになった海外悪性伝染病に対する我が国の防疫システムの問題点を考えてみたい。
 

シンポジウム「食の機能・安全を科学する-おいしさから生理活性、安全性の評価まで」のプログラム