有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会- 構成員研究紹介(大竹 久夫・本田 孝祐)
氏名 | 大竹 久夫・本田 孝祐 |
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所属 | 大阪大学大学院 工学研究科 生命先端工学専攻 |
ウェブサイト | http://www.bio.eng.osaka-u.ac.jp/be/ |
研究テーマ | 疎水性細菌を用いた非水バイオプロセスへの挑戦 |
疎水性細菌Rhodococcus opacus
Rhodococcus opacus B-4株は、水・有機溶媒混合液中で有機相に吸着したり、湿潤状態で有機溶媒に分散したりといった特性を有する「疎水性」細菌として特徴づけられる。この特徴により、本菌は有機溶媒を含む反応液中において、難水溶性基質への高い接触・取り込み効率を有すると考えられる。われわれのグループでは、この仮説を実証するとともにR. opacus B-4を触媒とした非水環境下での各種難水溶性化合物の微生物変換に挑んでいる。
水/有機溶媒混合液中における各種菌体の挙動
左から順に、R. opacus B-4、 R. erythro-polis PR4、P. putida T-57、 E. coli JM109
水/有機溶媒二相反応系内での芳香族水酸化反応の実施
大腸菌、R. opacusのそれぞれにPseudomonas putida 由来トルエンジオキシゲナーゼを発現させ、二相反応系内にて側鎖炭素鎖長の異なる一連のアルキル化ベンゼンの水酸化反応を実施した。また、反応液中の水・有機溶媒比を変化させた反応液を用意し、1)基質の水溶度、2)有機溶媒体積比が反応収率に及ぼす影響を調査した。大腸菌を宿主とした場合、基質の水溶度が低下するにつれ、収率が顕著に低下したのに対し、R. opacus ではほぼ一定の収率が得られた。R. opacus は有機相中に溶解する基質を積極的に取り込めるため基質の水相への分配比に影響を受けづらいためと考えられる。
水・有機溶媒二相反応系内での各種アルキル化ベンゼン水酸化反応
有機相としてオレイルアルコールを使用した
一方、反応液の水・有機溶媒比率が収率に及ぼす影響については、次のように説明できる。有機溶媒の体積比が減少すれば、基質の水・有機溶媒相間の濃度差は大きくなる。この濃度差は基質の水相への分配のドライビングフォースとなることから、 大腸菌にとっては水相への基質の分配が大きい系、すなわち有機溶媒比が小さい系において反応が良好に進行したと考えられる。対照的にR. opacus は有機相中から基質を取り込むことが可能であるため、水・有機溶媒相の比界面積が最大となる系において最大収率を示したと考えられる。
なお、本反応系は現在5-Lジャーファーメンタースケールにまでスケールアップされており、sec-ブチルベンゼンを基質とした水酸化反応において初発濃度5 g/L(水相を含む総体積に対する濃度)の基質を85%以上のモル収率で水酸化することができている。
等量の水・有機溶媒混合液中にR. opacus B-4を分散させると、安定なwater-in-oil エマルジョンが得られる(左)
水・有機溶媒・菌体のそれぞれを蛍光染色して顕微鏡観察すると水・有機溶媒の界面に菌体が集中している様子が見て取れる(右)
非水環境下での微生物反応の実現
冒頭にも記したとおり、R. opacus B-4株は、湿潤状態で有機溶媒に分散することが可能である。この特性がいかにユニークなものであるか、皆さんの研究室で保存されている微生物菌体を有機溶媒に懸濁することに挑戦していただきたい。
ほとんどの微生物は、溶媒と混ざり合うことなく、容器の内壁にへばりつくことになるだろう。本菌のこのような特徴を活用することにより、二相系反応からさらに歩を進めた「有機溶媒一相系」での反応も実施可能である。もちろん湿潤菌体の大部分(約80%)は水であり、厳密にいえば「極めて水の少ない二相系」と呼ぶべき反応形態かもしれないが、有機溶媒中に直接菌体を分散させ反応を行うことにより、基質と微生物の接触効率を高められるほか、生産物の分離ステップの簡略化や反応液体積の縮小といったメリットが付与できる。
有機溶媒中に分散させた
R. opacus B-4(左)およびE. coli JM109(右)
好熱性細菌Thermus thermophilus HB27株由来の耐熱・耐有機溶媒アルコールデヒドロゲナーゼ(TtADH)を過剰発現させたR. opacusを用い、有機溶媒中での芳香族ケトンの立体選択的還元反応に取り組んだ。反応は50~80℃程度の高温で行われ、この温度でR. opacusは生理活性を失うが、有機溶媒への親和性に変化は見られなかった。その一方で、高温での処理を施すことによって反応効率の著しい増大が認められた。これは熱処理により菌体の膜構造が脆弱化し、基質の透過性が向上したためと考えられるが、この場合も目的の酵素は菌体内に保持され続けていた。
生産実験は、目的反応であるフッ化アセトフェノンの立体選択的還元を触媒するTtADH1、および本反応により消費されるNADHの再生用酵素としてシクロヘキサノールの酸化反応を触媒するTtADH2を共発現させたR. opacus B-4を用いて実施した。湿菌体を等モルのフッ化アセトフェノン、シクロヘキサノール混合液中に直接懸濁し、マグネチックスターラーによる撹拌のもと70℃にて反応を行った結果、収率約70%、最終生産物濃度510 g/lという高い生産性を達成することができた。
主な成果発表
【原著論文】
- Yamashita S, Satoi M, Iwasa Y, Honda K, Sameshima Y, Omasa T, Kato J, Ohtake H (2007) Appl Microbiol Biotechnol 74: 761-767
- Honda K, Yamashita S, Nakagawa H, Sameshima Y, Omasa T, Kato J, Ohtake H (2008) Appl Microbiol Biotechnol 78: 767-773
- Sameshima Y, Honda K, Kato J, Omasa T, Ohtake H (2008) J Biosci Bioeng 106: 199-203
- Hamada T, Sameshima Y, Honda K, Omasa T, Kato J, Ohtake H (2008) J Biosci Bioeng 106: 357-362
- Hamada T, Maeda Y, Matsuda H, Sameshima Y, Honda K, Omasa T, Kato J, Ohtake H (2009) J Biosci Bioeng 108:116-120
【学会発表・シンポジウム講演予定】
- 本田孝祐、大竹久夫 …疎水性細菌を活用した非水バイオプロセスへの挑戦
(社)日本生物工学会 有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会
平成21年度シンポジウム 平成22年3月26日 (東京)
- 大竹久夫、本田孝祐、大政健史、奥 崇、岩田英之、 黒田章夫 …生体触媒利用技術の無駄が徹底的に省ける新技術の開発 化学工学会 第75年会 平成22年3月18-20日(鹿児島)
- Ohtake H, Honda K …Development of simple ECO process as a new bio-based production platform 14th International Biotechnology Symposium and Exhibition, 15-19 Sep 2010 (Rimini, Italy)