第75回 日本生物工学会大会(2023)後記
大会実行委員長 堀 克敏
第75回日本生物工学会大会は2023年9月3日 (日) ~5日 (火) の3日間、名古屋市内の名古屋大学東山キャンパスで開催されました。コロナ禍後、実に4年ぶりの現地開催となりました。懇親会も、創立100周年記念祝賀会としてオンサイト開催されました。
振り返りますと、コロナウイルスによるパンデミックや社会の感染対策の見通しも完全には立たない中、また現地開催のノウハウについての関係者の記憶が薄れている中、暗中模索の状態で大会準備を始めねばなりませんでした。まずは、4年前の現地開催地の岡山大学を訪ね、引継ぎをさせていただいたのが2022年4月でした。その後、実行委員のメンバーを選定、会場の確保と日程の決定を行い、大会の約1年前に第1回実行委員会を開きました。その時点でも、学術発表についてはなんとか現地開催ができたとしても、ランチョンセミナーや企業展示を実施できるのか、実施しても協力してくれる企業はあるのか、記念祝賀会も人数制限や着席形式での開催を余儀なくされるのか、わからないことばかりでした。企業の協力が得られずに大赤字になる可能性が考えられました。その後も、オンライン併用のハイブリッド形式にすべきか、現地開催のみとするかなど、議論は尽きませんでした。しかし、実行委員の負担や費用を検討し、2022年12月の実行委員会において現地開催のみと決定しました。その際、企業の方からは、ハイブリッド形式だと出張許可を取れない可能性があるので、現地開催のみの方がよいとの意見も出ました。
開催方式を決めた後は、準備を本格化させました。今大会は、生物工学会創立101年目にあたり、新しい世紀を踏み出す最初の大会でもありました。そこで、本学会としては新しい試みに挑戦させていただきました。一つ目が、学生表彰を始めたことです。二つ目が、これと関連してトピックス集の位置づけを見直したことです。三つ目が、学生のための企業研究セミナーを設けたことです。四つ目が、共催の位置づけを明確にし、相応の費用負担をいただいたことです (理事会で改めてご確認いただきました)。五つ目が、当日参加の現金払いを完全になくしたことです。これら新しい試みが本大会の最大の特徴となり、今後の大会の方向性を示すものとなりました。
功労会員推戴式
左より,田谷,日野 (敬称略)
生物工学賞,生物工学功績賞,生物工学功労賞,生物工学
奨励賞 (江田賞,斎藤賞,照井賞),生物工学若手賞受賞者.
下段左より,髙木,青柳,堀,中山,
上段左より,徳岡,吉野,井上,景山,片岡 (敬称略).
生物工学アジア若手賞,生物工学論文賞受賞者.
下段左より,Pau-Loke Show,Chun-Yen Chen,相馬,増田、
上段左より,片山,戸谷,福田,有馬 (敬称略 ).
生物工学学生優秀賞 (飛翔賞) 受賞者.
下段左より,宇田川,木伏,加藤,角田,
上段左より,大成,内田 (敬称略).
当日は、懸念された台風襲来も免れ、晴天に恵まれました。結果として、全日程で参加者数は1690名 (253名の招待者を含む) に達し、海外からも10か国68名もの方にご参加いただきました。10か国の内訳は、台湾 (19名)、ノルウェー (18名)、韓国 (17名)、中国 (5名)、タイ (4名) に加え、UAE、デンマーク、オランダ、シンガポール、USAから1名ずつでした。全日程23件のシンポジウムにおいて合計120件の発表が、すべて口頭発表とした一般講演において554件の発表が、それぞれありました。プログラムとしましては、一部のやむを得ない部分を除いて、シンポジウムと一般講演の時間帯をずらしながら、全日程に分散させるようにしました。また、学生表彰の対象となる講演を含む一般講演を最終日の午後にも配置することにより、なるだけ最後まで学会に参加いただけるように工夫しました。その結果、シンポジウムと一般講演のどちらにも聴衆が流れたかと思います。3件の国際シンポジウムが、2、3日目の二日間にわたって一つのホールで連続的に開催され、この会場は国際交流の場となりました。どの会場も、数十名から多いところでは百名を超える聴衆で賑わいました。例年通り、初日の午前中に、名誉会員・功労会員推戴式、各賞の授賞式、続いて、功労賞、学会賞、功績賞の受賞講演が行われ、参加者は300名を超えました。午後の初めには、奨励賞 (江田賞、斎藤賞、照井賞) の受賞講演が並行して行われました。
受賞講演の様子
初めての学生表彰についてですが、口頭発表としたため、審査員の確保が一番の課題でした。準備段階では、ビデオを撮影してもらい審査員が見ておくという案や、対象講演の時間と発表教室を集めてしまうなどの案も出ましたが、最終的には、通常の口頭発表の中に散りばめて実施することとしました。審査対象が多すぎて支障をきたさないように、審査希望発表を発表者側に選出してもらう形式とし、責任著者一人あたり最大2名の学生まで選出可能と枠を設けさせていただきました。評価項目を、1) 理解力 (背景理解)、2) 説明力 (講演のわかりやすさ)、3) コミュニケーション力 (質疑応答) と定め、1講演に対して4名程度の審査員を配置し、評価して点数化し、上位10~20%程度を表彰することとしました。結果的に、全口頭発表554件のうち241件の審査希望が集まり、7件の学生最優秀発表賞、37件の学生優秀発表賞を選出しました。当初の想定より審査希望件数が少なかったのは、学生表彰初年度であったため、大会ホームページ等ではお知らせしていましたが、周知には至らなかったためであると考えられ、来年度以降は審査希望も増えることが見込まれます。
学生表彰の新設のため、トピックス集の選び方についても再考の必要が生じました。従来、トピックス集は、冊子の編集・印刷スケジュールとの兼ね合いもあり、要旨提出前に、発表申込者による宣伝文句だけを頼りに選出されていました。優秀な学生発表そのものは、厳正な審査により表彰されることになったため、トピックス集選定対象は、必ずしも優秀な発表とは限らないとの前提で、トピックス性、すなわちニュース性があるかどうかで選出することにしました。ニュース性の指標として、産学共同研究や学会賛助会員によるユニークな研究にスポットを当て、広報担当の先生と私が中心となり35件の発表を選出しました。従来は、この中から数件のトピックス賞が選定されてきたのですが、今回はこれを行わず、すべての選出発表を「Topics of 2023」として印刷物に掲載、大会HPでも公表しました。また、例年、効果がはっきりしない記者会見を見送り、専門会社のPR TIMES (有料)、Press Walker (無料) を利用してプレスリリースを行いました。両社のWEBサイトで公開され、1週間に2千回も閲覧され、転載も22サイトに上りました。残念ながら新聞やテレビのような大型マスコミには取り上げられませんでしたが、新しい広報形式として、それなりの効果はあったのではないかと事後評価しております。
企業への呼びかけが遅れたため参画企業が集まるか危惧されましたランチョンセミナーも、実行委員および本部役員の先生方のご尽力により、結果的には11社 (各日3、4、4社) に開催いただきました。集客が心配された初日も含め、弁当の引換券は毎朝早い時間に配布が終了してしまうほどの人気で、実際にどこの企業セミナーも盛況でした。企業展示も39社に、2棟3か所に分かれて43小間の出展をいただきました。この数は、岡山大会の56小間/48社よりは少ないですが、オンライン大会が続き、前年の展示企業懇親会のような依頼の場もなかった中で、健闘した数であると事後評価しております。各所にドリンクやコーヒーコーナー、抽選コーナーを配置し、参加者が各箇所を回るようにしたため、出展企業からは好評でした。ランチョンセミナー、企業展示がコロナ禍前の状況に復活したため、懸念された収支の悪化も免れることができました。
今年度から正式な大会行事として始めた「学生のための企業研究セミナー」については、計画通り10社 (初日と二日目に5社ずつ) に、すべての口頭発表の終了後に1時間の枠で実施していただきました。各社には30分×2タームでの説明をお願いし、学生が一日に2社を回れるようにし、また2社以上のセミナーに参加した学生にはQUOカードを配布するなどの工夫をしました。しかし、初年度で周知が不十分であったことは否めず、期待したほど学生が集まりませんでした。特に初日は29人の学生参加者しかなく、2日目に、直前の口頭発表会場での座長からのアナウンスや告知の張り紙をしたことにより50名程度には増えましたが、来年以降は周知を図るためのさらなる工夫が求められるでしょう。他方、参加した学生の満足度が高かったことは、事後のアンケート結果から、うかがい知れました。こういった試みは継続により効果が出てくるものですから、大会参加学生のキャリア形成や企業の人材獲得の支援の場として定着し、学会参加へのきっかけにつながってくれれば幸甚です。
懇親会は、学会創立100周年記念祝賀会として、初日の18時30分から名古屋東急ホテルにて、立食形式で開催されました。有料参加者411名に招待者117名を加えた528名の方にご出席いただきました。大会実行委員長挨拶、秦会長の挨拶、来賓の宮崎誠一名古屋大学工学研究科長からの祝辞に続いて、韓国生物工学会KSBB理事のDong SooHwang 様 (浦項工科大学校教授)、台湾生物工学会BEST副会長のJohn Chi-Wei Lan様 (元智大学教授) からも祝辞をいただいた後、関谷醸造様からご提供いただいた樽酒で鏡開きを行い、小林猛元会長 (名古屋大学名誉教授) に乾杯の音頭を取っていただきました。本部依頼の酒造会社 (9社) に加え、愛知県酒造組合を介して25社から沢山の日本酒をご提供いただき、ひつまぶしなどの名古屋名物をはじめとする料理も大好評で、会員交流も大いに盛り上がりました。二日目の夜には、例年通りに展示企業懇親会と若手交流会も開催され、こちらも盛り上がりました。
最後になりましたが、今回の名古屋大会実行委員会は名古屋大学を中心に、静岡大学、三重大学、愛知工業大学、富山県立大学、福井県立大学、富山大学、北陸先端科学技術大学院大学の会員の協力でメンバーを組織しました。大会運営にご尽力いただきました実行委員の皆様に改めてお礼申し上げます。
秦会長
鏡開き
乾杯(小林猛元会長)
記念祝賀会の様子
創立100周年記念品のお酒と風呂敷