【本部だより】公益法人制度の施行と日本生物工学会
公益法人化検討WG委員長:加藤 純一
庶務担当理事:清水 浩
本年「生物工学会誌」6月号,およびHPに掲載された飯島信司会長の就任の挨拶にもありますように,平成20年12月1日をもって公益法人制度が施行され,日本生物工学会も従来の社団法人から何らかの新しい組織へと生まれ変わる必要があります.
日本生物工学会の理事会・支部長会では塩谷捨明前会長の時代から,継続的にこの問題について検討を重ねてまいりました.我が国の生物工学の進歩普及を図り,もって学術の進歩に貢献してきた日本生物工学会としては,この際,公益法人の道を目指すべきであると考えています.公益法人化に向けた取り組みの現状,認定後の予想される当学会の姿をご説明申し上げ,会員の皆さまからのご意見を頂戴したいと考えています.
1.公益法人とは
重要なポイントは,公益法人化は平成20年度に施行されました公益法人制度により,法的に公益性基準を満たした場合にのみ認められるということです.多くの会員の方は,学会のようないわゆる一般常識に照らして公共性のある活動をしている組織は,公益法人として認定されることは当然のことと思われるかもしれません.公益社団法人として認定を受けようとする社団法人は,法的な公益性基準に基づいて事業の公益性を主張した上で,認定法に基づいて国会同意を得て選ばれた委員より構成される公益認定等委員会に申請し認定を受ける必要があります.当然,公益性を担保するための活動内容が求められ制約も受けます.ここでは,公益法人として認められた場合のメリットとデメリットについて述べます.
2.公益認定を受けるメリットとデメリット
学会が公益社団法人認定を受けるメリットは何でしょうか? 図1ではメリットの項目を挙げ,同時にデメリットを示しています.日本生物工学会が公益社団法人として認定されますと,
【メリット】
- 公益性に基づく,従来の学会活動との整合・地位向上
従来より行われてきた日本生物工学会の生物工学分野における数々の学術活動の重要性が広く認められ,一般の方への認知度が高まります.
- 学問分野,会員の社会的地位向上;社会的信用の維持
学会の社会的信用やブランド価値が向上します.学会員の社会的地位向上に直結するばかりか,次世代の優秀な生物工学研究者が集まることにつながると考えています.
- 組織を見直すことによる学会活性化の機会
学会の恒常的な活動・組織の見直しによって学会が常に活性化することにつながります.公益社団法人に一度認定されたとしても公益社団法人に留まるためには,認定を永続的に満たす必要があります.これは活動の制約にもつながりますが会員の学会活動に公益性があるという自負,絶えざるチェックにもつながります.
- 税務上の優遇措置(公益法人)の享受
公的に公益性のある組織として認められた場合,税務上の優遇措置を受けることができます.
- 税務上の優遇措置(寄附者)の享受
寄附者に対しても税制上の優遇措置があるため,寄附を受けやすくなります.
【デメリット】
- 公益認定基準による活動の制約
公益性の認定基準を受ける必要があり,事業内容の50% 以上は公益性を持つものでなければなりません.営利目的のあるような事業については制約を受けます.会計上も,支部活動,研究部会活動などと連結決算をする必要があるため,事務的な負担も増えます.
- 行政庁による厳しい監督
公益認定を受けた場合,申請時のみならず,継続的に行政庁による厳しい監督を受けると予想されます.
- 公益認定の取消しを受けた場合のリスク
なんらかの理由で公益認定の取り消しを受けた場合,それまでに築かれてきた信用を失い,解散ということもあり得ます.
以上のように,公益法人として認定を受けた場合のメリットとデメリットを比較すると,メリットの方がきわめて大きいと考えられます.社会的な信用が向上すれば数々の競争的資金の獲得においても有利になる可能性が高いのではないかと考えられます.
3.日本生物工学会の事業は公益目的か?
改めて,現在日本生物工学会が行っている事業は,公益目的の事業であるか見てみましょう.学会HPに掲載されています定款,各年度の本部,支部,研究部会の事業は公益目的事業の判断基準として挙げられる「不特定多数者の利益の増進に対する寄与」,「受益機会の公開性」の2点と整合しています.
法律では,公益認定対象事業を23項目に定めていますが,その中で,日本生物工学会の各事業が該当するものとして,
- 1. 学術・科学技術の振興
- 2. 文化・芸術の振興
- 4. 高齢者の福祉の増進
- 7. 児童又は青少年の健全な育成
- 9. 教育,スポーツ等を通じて国民の健全な発達に寄与または豊かな人間性の涵養
- 15. 国際相互理解の促進
- 19. 地域社会の健全な発展
- 20. 公正かつ自由な経済活動の機会の確保及び促進並びに活性化による国民生活の安定向上
- 21. 国民生活に不可欠な物資,エネルギー等の安定供給の確保
があります.これをさらに進めるには本部と支部とが一体となった活動が必要ですし,各委員会,研究部会の一体となった活動の充実をはかる必要があります.
また,公益認定を得るためには,将来を展望した定款・諸規程の改定,役員などの選任法の改定,国際的貢献の位置づけ,関連学協会との連携など検討課題が多くあります.例えば,評議員会が廃止され,代議員からなる社員総会の重要性が増します.
現在,多く存在する法人の階層化・差別化につながりかねない今回の公益法人化に際して,現理事会は責任を持って最善の結果を得るよう努力を重ねるつもりです.また,公益法人化に向けて実質的な作業を行う公益法人化検討WGも設けられました.会員各位のご理解とご協力をお願いしたいと思います.
なお,会員各位におかれましては,公益社団法人認定に向けて,ご意見をいただければ幸いであります.
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