氏名 中島 一紀
所属 東北大学大学院工学研究科化学工学専攻
ウェブサイト http://www.che.tohoku.ac.jp/~rpel/

研究紹介

水でも有機溶媒でもない第3の溶媒「イオン液体」が新たな生体触媒の反応場として注目されている。イオン液体は室温で液体として存在する塩の総称であり、カチオン、アニオンの組み合わせを変えることで、様々な種類のイオン液体を得ることができる。イオン液体をバイオプロセスに用いた場合、イオン液体は(A)極性溶媒であるため、糖やアミノ酸といった極性の生体関連化合物を容易に溶解することができ(water-like)、一方で(B)非水溶媒であるため、酵素的合成反応が可能であり(organic solvent-like)、さらに(C)不揮発性であるため、それを利用した新たな非水系バイオプロセスを構築できる(salt-like)、といった反応溶媒としての特異性を示す。

中島研究紹介図(イオン液体の特徴とバイオプロセスへの応用)
イオン液体の特徴とバイオプロセスへの応用

 

塩のみから構成されるイオン液体中においても様々な生体触媒(リパーゼ、プロテアーゼ、ペルオキシダーゼ、whole-cell biocatalyst)がその機能を発現することが報告されているが、その触媒活性は水溶液中と比べると非常に低い。本研究ではイオン液体中での酵素活性の向上を目指し、酵素のイオン液体への可溶化を試みた。酵素可溶化のアプローチとして酵素への化学修飾(共有結合的修飾)を検討し、くし型のPEGを酵素の修飾剤として用いた。このくし型PEG(PM13)は主鎖に酵素との結合点を有し、複数本のグラフト状PEG鎖をもつ。これを修飾剤として用いると、直鎖状PEGよりも多量のPEG鎖をタンパク質表面に修飾できる。

モデル酵素としてスブチリシン(プロテアーゼ)を用いてPM13の化学修飾を行ったところ、PM13修飾スブチリシン(PM13-Sub)はイオン液体に均一に可溶化することが明らかとなった。酵素表面をイオン液体への溶解性が高いPEGが多量に酵素表面を被覆しているため可溶化できたと思われる。

さらに、酵素活性を調査したところ、未修飾の凍結乾燥酵素では全く反応が進行しなかったのに対し、可溶化したPM13-Subは極めて高い触媒活性を示した。つまり、酵素の溶解性がイオン液体中での高活性発現のための重要なファクターであることが示された。

さらに、PM13-Subの触媒活性は一般有機溶媒よりもイオン液体中の方が高かった。イオン液体中での酵素反応は、水を全く添加しない非水系反応であるため効率的な合成反応・エステル交換反応が可能であり、また有機溶媒に溶解しない極性化合物を基質として用いることができる新たな生体触媒反応系である。
 

 中島研究紹介図(タンパク質へのくし型PEGの化学修飾とイオン液体への可溶化)
タンパク質へのくし型PEGの化学修飾とイオン液体への可溶化

 

発表論文

  • K. Nakashima, K. Yamaguchi, N. Taniguchi, S. Arai, R. Yamada, S. Katahira, N. Ishida, H. Takahashi, C. Ogino, A. Kondo, “Direct Bioethanol Production from Cellulose by the Combination of Cellulase displaying Yeast and Ionic Liquid Pretreatment” Green Chem. (2011) in press.
  • S. Arai, K. Nakashima, T. Tanino, C. Ogino, A. Kondo, H. Fukuda, “Production of Biodiesel Fuel from Soybean Oil Catalyzed by Fungus Whole-cell Biocatalysts in Ionic Liquids” Enz. Microb. Technol., 46 (1), 51-55 (2010).
  • K. Nakashima, N. Kamiya, D. Koda, T. Maruyama, M. Goto, “Enzyme Encapsulation in Microparticles Composed of Polymerized Ionic Liquids for Highly Active and Reusable Biocatalysts” Org. Biomol. Chem., 7 (11), 2353-2358 (2009).
  • N. Kamiya, Y. Matsushita, M. Hanaki, K. Nakashima, M. Narita, M. Goto, H. Takahashi, “Enzymatic in situ Saccharification of Cellulose in Aqueous-Ionic Liquid Media” Biotechnol. Lett., 30, 1037-1040 (2008).
  • 中島一紀,神谷典穂,後藤雅宏,「新たな非水溶媒イオン液体中での酵素反応」,月刊バイオインダストリー,第25巻(7号),24-34(2008)
  • K. Nakashima, T. Maruyama, N. Kamiya, M. Goto, “Spectrophotometric Assay for Protease Activity in Ionic Liquids Using Chromogenic Substrates” Anal. Biochem., 374, 285-290 (2008).
  • 中島一紀,後藤雅宏,「生体触媒の新しい反応場としてのイオン液体 -水中から有機溶媒へ、そして今イオン液体へ-」化学工学,Vol.70,No.2,111–113(2006)
  • K. Nakashima, T. Maruyama, N. Kamiya, M. Goto, “Homogeneous Enzymatic Reaction in Ionic Liquids with Poly(ethylene glycol)-Modified Subtilisin.” Org. Biomol. Chem., 4, 3462-3467 (2006).
  • K. Nakashima, T. Maruyama, N. Kamiya, M. Goto, “Comb-Shaped Poly(ethylene glycol)-Modified Subtilisin Carlsberg is Soluble and Highly Active in Ionic Liquids.” Chem. Commun., 4297-4299 (2005).
     

 

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