氏名川口 秀夫 
所属東京大学大学院 工学系研究科 フロンティアエネルギー開発工学(JAPEX)寄付講座 

非在来型資源である重質油の生産および利用に関する環境調和型技術開発として、有機溶媒存在下でのバイオプロセスに関する研究を行っています。

  • 重質油成分の選択的改質を想定した親油性・溶媒耐性生体触媒の開発
    重質油には不純物としてDibenzothiophene (DBT)等の有機硫黄化合物とCarbazole等の有機窒素化合物が、質量換算で最大8%と数%それぞれ含まれています。燃焼させると酸性雨や大気汚染の原因物質となるSOxやNOxを発生するため、燃料油の生産工程ではこれら不純物を除去する“改質”による精製を行います。現在工業的に利用されている水素化脱硫法は原油に金属触媒と水素を接触させて脱硫を行う工程ですが、高温・高圧の反応条件や、多量の水素消費、非選択的反応による副生物(CO2等)の生成を伴うため、より経済的で低環境負荷の改質技術が求められています。
    そこで本研究では、水素化脱硫に代わる新たな改質プロセスの開発を目的に、親油性・溶媒耐性微生物を宿主とする微生物触媒の利用を検討しています(図1)。ある種の微生物ではDBT等の有機硫黄化合物から選択的にS原子を除去する代謝が知られており、選択的脱改質への応用が期待されています(図2)。我々は、自然界からの微生物改質に関与する有用遺伝子(群)の取得に取り組むと共に、有用遺伝子を導入するための触媒宿主の開発と機能解析を行っています。

川口研究紹介(図1)
図1 新規微生物触媒の利用による重質油の環境調和型改質へのアプローチ

 川口研究紹介(図2)
図2 微生物によるDBTの選択的脱硫反応

 

  • SADG法における生産水再利用率向上に向けたバイオプロセスの検討
    オイルサンド・重質油等の非在来型石油資源の可採資源量は1~3 兆バレルと推定され、在来型石油の資源量に匹敵するため、その資源利用に関する技術開発が望まれています。オイルサンドからの重質油生産工程では、1リットルの油を生産するのに3リットル以上の水を必要とするため水資源の再利用が必須ですが、プロセス水の繰り返し利用による水質低下が再利用率低下の要因として問題となっています。
    本研究では、オイルサンドの油層内回収法のひとつであるSAGD法におけるプロセス水再利用率向上に関する技術開発を目的に、微生物による浄化能の応用を検討しています。
    カナダにあるJACOS(Japan Canada Oil Sands Limited)が所有するSAGDプラントから油層からの生産水およびプロセス水を採取し、その化学的組成を解析すると共に、微生物による浄化技術の適応可能性およびその反応機構の解析を行っています(図3)。プロセス水の水質改善(可溶化、沈澱、有機物の分解など)により再利用率を改善することで、環境負荷の少ない重質油開発技術としての応用が期待されます。
     

 川口研究紹介(図3)
図3 微生物浄化作用を応用したSAGD法プロセス水再利用率の改善

公表論文・学会発表

  • 【公表論文】
    川口 秀夫(2007)地下微生物圏へのアプローチ ―石油と微生物の関わり―, 生物工学会誌 85(12):550.
     
  • 【学会発表】
    1. 「SAGD法におけるプロセス水の化学的分析と微生物浄化技術利用の検証」(2010)
      …○李 征国、川口 秀夫、増田 昌敬、佐藤 光三、今里 昌幸、石油技術協会 平成22年度春季講演会
    2. 「有機溶媒耐性菌Rhodococcus opacus B-4の機能改変による重質油の選択的脱硫触媒としての応用」(2010)  …○川口 秀夫、小林 肇、佐藤 光三、日本農芸化学会 2010年度大会
    3. 「原油浸潤土壌からのdibenzothiopheneおよびcarbazole分解性菌の単離・同定」(2009)
      …○川口 秀夫、佐藤 光三、日本農芸化学会 2009年度大会、大会要旨集 p.329

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