有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会 – 構成員研究紹介(加藤 純一)
氏名 | 加藤 純一 |
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所属 | 広島大学大学院 先端物質科学研究科 分子生命機能科学専攻 |
有機溶媒耐性細菌を活用した疎水性ケミカルの生産
- 不活性炭素の水酸化
不活性炭素への酸素の付加は合成有機化学において極めて重要な反応である。酸素付加の位置特異性、立体構造特異性、それに導入する酸素の数の制御(例えば、水酸基をいくつ導入するか等)は重要なポイントであるが、合成化学的にはそれら特異性を確保するのは困難な場合がある。一方、生体触媒反応は独特で厳密な反応特異性を示し、合成化学的には困難な反応にも対応できる場合が多い。しかし、不活性炭素の酸化反応には還元力の供給が必要であることからしばしばこの酸化反応は増殖連動型であるのに対し、原料や生産物の疎水性ケミカルは高い生物毒性を示すものが多く、こうしたバイオプロセス開発の障壁になっている。我々は、疎水ケミカルに強い耐性を示す有機溶媒耐性細菌を宿主とした生体触媒と有機相-水相から成る二相反応系を活用して、疎水性ケミカル生産のための酸化バイオプロセスの基盤技術開発を行っている。Pseudomonas putida T57株は活性汚泥から単離した菌株で、トルエンやキシレンなどの芳香族化合物、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素が飽和濃度存在する条件でも生育可能な有機溶媒耐性細菌である。また、トルエンジオキシゲナーゼ経路(下図)を有し、トルエンを唯一炭素源として資化することができる。我々は、T57株と、この株が有するトルエンジオキシゲナーゼ経路を活用し、芳香族炭化水素を原料として有用フェノール化合物およびカテコール化合物を生産する生体触媒を構築している。下図の(II)の
反応を欠失させたT57株の変異株はフェノール化合物の生産、(III)の反応を欠失させた変異株はカテコール化合物の生産の生体触媒として活用できる。構築した生体触媒と培養液(水相):デカノール(有機相)=1:1の二相反応系を組み合わせることにより、10g/L以上のフェノール化合物およびカテコール化合物の生産に成功している。
- 有機溶媒耐性細菌を活用するブタノール生産
ブタノールは強い生物毒性を有する。アセトン-ブタノール生産菌で有名なClostridium acetobutylicumでさえ最大20gブタノール/L程度の耐性しか有しておらず、その濃度以上のブタノール生産は無理である。さらに高いブタノール生産濃度を達成するためには、ブタノール生産の生体触媒の宿主としての高いブタノール耐性を有する微生物の単離が鍵となる。我々は、タイ・チュラロンコン大学/マヒドン大学との共同研究を通じ、30gブタノール/L以上の耐性を有するBacillus 属細菌およびExiguobacterium属細菌の単離に成功している。今後はこれらブタノール耐性細菌にC. acetobutylucum由来のブタノール生成系遺伝子群を導入し、高ブタノール生産のための生体触媒を構築し、ブタノール生産に活用することを考えている。C. acetobutylicumによるブタノール生産でもうひとつ問題になっているのは、C. acetobutylicumを用いるとどうしてもアセトン-ブタノール-エタノールの混合ソルベント発酵になってしまう事である。ブタノール生成系の遺伝子のみを持つ生体触媒を用いればホモブタノール発酵が可能となり、この混合ソルベント発酵の問題も克服できると期待される。
公表論文
- Faizal, I., et al. Isolation and characterization of solvent-tolerant Pseudomonas putida strain T-57, and its application to biotransformation of toluene to cresol in a two-phase (organic-aqueous) system. J. Ind. Microbiol. Biotechnol. 32:542-547 (2005).
- Faizal, I., et al. Bioproduction of 3-methylcatechol from toluene in a two-phase (organic-aqueous) system by genetically modified solvent tolerant Pseudomonas putida strain T-57. J. Environ Biotehcnol. 7:39-44 (2007).
- 加藤 純一 「有機溶媒耐性細菌を利用した疎水性ケミカル生産技術の開発」 バイオサイエンスとインダストリー 68:15-20 (2010).