【随縁随意】COVID-19 の後-児島 宏之
生物工学会誌 第98巻 第10号
児島 宏之
2020年2月頃までは対岸の火事だったCOVID-19,3月末から始まった在宅勤務が今日現在まで続いています。ゴールデンウイークもずっと在宅で過ごしました。皆さまがこの巻頭言をお読みになる頃の状況も何となく予測・想像できるようになってきました。
決して手放しで喜んでいるわけではありませんが,COVID-19 が2019年12月に発生し,ウイルスのゲノムが次世代シーケンサーを使って一週間程度で決定されました。ウイルスが変異しつつ世界各地に広がっていった様子もゲノム情報をもとにトレースされています。得られる限りの科学的知見を総合し,診断方法,ワクチン,治療薬について,さまざまな取組みが行われています。ネット上では不確定なものも含む多くの情報が飛び交っていますが,京都大学の山中伸弥先生の見識の高いWebサイト(https://www.covid19-yamanaka.com/index.html)や,日経バイテク元編集長の宮田満氏の質の高い情報(https://twitter.com/miyatamitsuru)に無料でアクセスすることもできます。いまだかつてない急速な勢いで罹患数が増える状況下で,感染拡大を防止しつつ崩壊寸前の医療現場では患者さんを治癒する努力が続けられる一方で,このような先端科学を駆使した取組みが世界的規模で行われていることに感銘と感謝の念を抱くとともに,生物工学会の会員としても個人,組織,学会として何ができるか,何をすべきかを考えています。
短期的には,崩壊寸前の医療を支え,不足している資材の供給を可能にすること,食料をはじめとしたライフラインを確実なものにする取組みが優先されます。その後は一旦停止しているさまざまな活動とその活動に従事する人の生活を軌道に乗せ経済的基盤を確保しつつ,学校教育のように将来にむけての取組みを再開させる必要があります。
今改めて意識すべきことは「COVID-19の前の状態に戻らない。現状を回復するだけではなく,新たな仕組みを作り,いち早く成長に向けて進んでいかなくてはならない」ということでしょうか。失われたり棄損されたりした仕組みに従事されていた方々への最大限の配慮が必要ですが,「以前の仕組みを再構築するよりも,過去のしがらみを捨て去って,より良い仕組みを構築する」良い機会とも言えます。コロナウイルスとの闘いは長期にわたると予想されています。マラソンランナーの山中先生もマラソンに例えています。取組みの積み重ねによって,将来に大きな差が生じる可能性があります。今は日々の活動に色々な制限があり,実験,実習,試作,製造に大きな制限を受けています。この状態は皆さんの努力によって少しずつ回復していくでしょうが,状態が回復することをただ待ち望むのでなく,将来について考え,計画を立て,実行するためのさまざまな準備をすると考えれば時間はいくらあっても足りないでしょう。
今こそ私たちが実現すべき未来の価値,姿を改めて考え,それに向かって何をすべきかをしっかり考えておきたいと思います。後ろを振り返って嘆き悲しむのではなく,明るい将来を信じて頑張りましょう。
まるい地球の水平線に
なにかがきっとまっている
くるしいこともあるだろさ
かなしいこともあるだろさ
だけどぼくらはくじけない
泣くのはいやだ 笑っちゃおう
進め
ひょっこりひょうたん島……
その昔のNHKで放送された人形劇『ひょっこりひょうたん島(作詞:井上ひさし・山元譲久,作曲:宇野誠一郎)』の主題歌より。是非YouTubeでご覧ください。モーニング娘。も歌っています。
著者紹介 味の素株式会社(専務執行役員)