生物工学会誌 第96巻 第7号
伊藤 伸哉

SGUは、文部科学省のスーパーグローバル大学(SGU)創成支援事業の略号で、現在、最長10年間の長期プロジェクトの中間審査時期を迎えています。この事業に参画している大学(タイプA 13校、タイプB24校)に所属する先生方は、英語での授業、留学生の勧誘、学生の留学サポート・英語力アップなど、さまざまな負担を感じておられると思います。私の専門は、生体触媒化学やバイオプロセスですから、こうした専門分野の研究費や事業の評価委員を担当することが度々ありますが、ひょんなことからこのSGU事業の審査部会委員を、以前の大学の世界展開力強化事業から務めています。自分でもこの役は適任かどうか少々疑問ですが、おそらく国公私大・公的機関・民間、地域、理系・文系のバランスの関係から選ばれたのだと思います。もちろん、SGU事業には批判もあります。私自身、採択時、これほどまでに細かい数値目標を採点化する必要があるのか、文部科学省の誘導が強すぎるのではないかと疑問を持ったことも事実です。また、世界大学ランキングは英米が外貨獲得の手段として利用しており、画一的な和製グローバル化では通用しないという論評もあります1)。ちなみに、本来のグローバル人材は、国境を越えて高等教育を受け学位を取得した人々が、出身国に関わらず国際労働市場で活躍する、こうした高度人材を指します。共通言語は英語です。

一方、最近の日本においては、若者人口の著しい減少、特に18才人口の減少が2018年問題として大学人には強く意識されています。若者の減少が、大学の統合や淘汰を推し進めるのは仕方なく、淘汰されないまでも学生の質低下や経営悪化など大学に与える影響は甚大です。しかし、最近のニュースでは、東京のある区の成人式では、20%近くが外国人で占められていたなど、東京圏を中心に非常に多くの外国人留学生が見受けられます。日本に住む外国人は、直近の2017年6月時点で247万人と過去最高であり、正社員やアルバイトなどの形で働いている外国人就労者も108万人に上っています。移民受け入れの是非はともかく、今や日本社会がこうした労働力を必要としているのは明らかです。この内、留学生は2017年にこれも過去最多の26万7000人(内訳:中国 10.72、ベトナム 6.17、ネパール 2.15、韓国 1.57、台湾 0.89、スリランカ 0.66万人)に上っています。この波はゆっくりですが、いずれ地方にも訪れるはずです。

したがって、これからの大学・企業や学会には、日本人の若者の減少を外国人の高度人材で補う(取り込む)努力が、求められるのではないでしょうか。そのために成すべきことは、まず留学生を増やすことですが、これは順調に増えています。また内向きと言われていた日本人留学生数も短期留学が多いのですが増加に転じています。こうした数値の変化は、前述のSGU事業などの後押しによるものであることは明らかです。次に、留学生に質の良い効率的な日本語教育を提供することが大切です(日本語のアドバンテッジを与える)。また、多くの日本人がコミュニケーション手段としての「英語の壁」を完全に払しょくすることはできないまでも、この壁を低くする努力を、個々のレベルも含めてこれからも続けて行くべきです。

昨年の早稲田大での大会のポスター発表でのエピソードですが、観客のほとんどいない外国人留学生に話しかけたところ、実に流ちょうな英語で熱心に答えてくれたのが私には強く印象に残っています。彼らのためにも、大学での英語による教育プログラムやコースの提供はやはり必要だと思われます。また、学会での英語のシンポジウムや情報の提供も引き続き実施・強化して行くべきだと思います。10年後の大学や学会の姿は、グローバル化の流れによって今とは相当変わっているのではないか、もしくは変わらざるを得ないのではないでしょうか。

1) 刈谷剛彦:オックスフォードからの警鐘 グローバル化時代の大学論、中公新書ラクレ (2017).


著者紹介 富山県立大学工学部(教授)

 

►生物工学会誌 –『巻頭言』一覧