【随縁随意】Vietnam奮闘記-播磨 武
生物工学会誌 第95巻 第11号
播磨 武
ベトナムのGMP(Good Manufacturing Practice)のレベルを引き上げようと思って、この地に来たのですが。想像していた以上に苦しんでいます。今回は生物工学から離れて、製剤の分野に移った人間のベトナム奮闘記を楽しんでいただければと思います。
さて、私は外資系の新薬メーカーであるファイザーで約30年(前半の20年間は生物化学工学をやっておりました)、日本のジェネリックメーカーである東和薬品で約8年、一昨年の2015年6月まで勤務しました。昨年(2016年)の正月明けに友人から電話があり、「退職して何もしていないなら、ベトナム国内企業でNo. 1の製薬会社であるDHG PHARMA社がコンサルタントを探しているので、ベトナムのために一肌脱いでくれないか」と言うのです。
環境次第ということになり、その年の2月にベトナムへ下見に行きました。ベトナムのGMPレベルがどれほどか知りたいのと、住居と食事が気になっていました。GMPのレベルは想像した通りでした。想像と違っていたのはベトナムではダイレクターレベルでも英語がほとんど通じないと言うことです。会社が準備してくれた住居はホテルでしたが、一軒家とメイドが希望であることと、自宅から会社まで通うのに運転手をお願いしたところ、すべて聞いてくれたのです。会社の会長の熱意が伝わってくる感じでした。もう一つ気になっていた食事はまったく問題なく受け入れることができました。2月にDHG PHARMAで2018年末まで働くことを決めましたが、書類の提出に時間が掛かり、実際にベトナムを再訪したのは4月の半ばでした。
ベトナムに着いて、まず工場見学を行い、工場の人達と話しました。驚いたのは、彼らが前のコンサルタントを盲目的に信じていることでした。以前に東和薬品で働き始めの頃のことを思い出しました。東和薬品の方々は、私の言うことを盲目的に信じてくれました。ただ、これでは私がいなくなった後で、何をするか自分達で考えられるようになりません。東和薬品で人を育てることの難しさを感じましたが、結局、彼らの成長を信じ、自分で考えることの大切さを教えました。ベトナムではもう少し状況は異なりますが、DHGの人々の成長を信じ、日本でやったように、自分で考えることの大切さを教えていこうと思いました。ただし、前のコンサルタントが必ずしも正しくないということを証明してからです。大変だったのは前のコンサルタントの協力がほとんど得られなかったことです。自分で自分のやった仕事や自分で承認した仕事を否定するのですから、無理もありません。このことによって前のコンサルタントとの人間関係が傷つかないことを祈るばかりです。
自分で考えることの大切さは、自由で活発な議論なくしてありえないと思います。しかし、自由で活発な議論をすることは中々大変です。ベトナム人は直属上司に対する信仰が厚く、その言葉に盲目的に服従することに慣れているので、自分で考えようとせず、すぐに答えを聞いてしまいます。答えをすぐに与えずに、根気よく、自分で考えることの大切さを教えていくのです。
私はよく人に“Be a reliable person.”「信頼できる人に成れ」と言いますが、信頼できる人とは約束を守る人だと思います。組織である以上、他人のした約束も守らないといけません。来た当初はAさんがやらないからとか、Bさんが遅れたとか言って、平気で約束を破ることに随分泣かされました。在任中にはReliable personを数人育てたいと思います。
ベトナムの人はある件の担当者を他の誰かに決めたら、その件が自分の担当の仕事と関係あるとしても、まったく無関心な人が多いと思います。また、新しい知識を身に着けようとしない人も多いようです。私は彼らの意識を変え、組織を見直し、必要があれば担当者を変え、DHGを他人の言葉を鵜呑みにせず、自分で考え、新しいことを積極的に学ぶような組織にしたいのです。難しいです。私が苦しむ理由が分かったと思います。任期までに完成は無理でも何とか目途を付けたいと思っています。
著者紹介 DHG PHARMA、 Senior Consultant