生物工学会誌 第94巻 第12号
古川 憲治

英タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)誌の2015年のアジアの大学ランキングによると、上位100校に入った日本の大学は19校で、21校の中国に首位の座を譲った。大学ランキングは研究者による評価や論文引用件数、留学生数や外国人教員の比率(国際化)などから算出される。日本の大学が国際化に乗り遅れていることが、ランキングを落とす原因になっている。大学が国際的に高い評価を得るには、教員がIFの高い学術誌に掲載される論文を沢山書くことはいうまでもない。海外から留学生を呼ぶには、国際的な情報発信に加えて、国際交流のネットワークの構築が必要になる。

ここで、私と中国・大連理工大学楊楓林教授との国際交流を紹介してみたい。
熊本大学大学院自然科学研究科博士後期課程の董飛君(現在、トヨタ中央研究所研究員)が、私の提供する科目を履修したことがことの始まり。彼から、中国の大学は全寮制で、寝食を共にした部屋仲間は、卒業後も兄弟と同様の付き合いをしていると聞いた。彼の部屋仲間は張興文君(現在、大連理工大学環境生命学院副教授)と劉志軍君(現在、大連理工大学教授・教務処長)で、3人とも楊教授の教え子。楊教授は大連理工大学化工学院の院長を長く務めた後、環境生命学院を設立した大物教授。2001年に董君の案内で大連理工大学環境生命学院を訪問し、楊教授と、張君、劉君、加えて楊教授の教え子で新進気鋭の全燮教授と出会った。共通の専門が排水処理工学ということもあり、意気投合し、交流が始まった。

楊研究室の劉毅慧講師を客員研究員として招聘したことをきっかけに、楊研究室から多くの先生方、学生が私の研究室に入室することになった。最初の博士後期課程の学生として成英俊さん(現在、大連市資源保護環境保全処・処長)、国費外国人留学生として喬森君(現在、大連理工大学環境生命学院副教授、第2回生物工学アジア若手研究奨励賞(The DaSilva Award)を受賞)、中国政府派遣の国家建設高水平大学公派研究生として馬永光君(現在、遼寧省機械研究院)、前述の劉先生が中国政府派遣のポストドクとして、楊教授の実験助手・徐暁晨君(現在、大連理工大学環境生命学院副教授)が博士後期課程の学生として研究室に入室した。彼らには研究室の主要研究テーマであるアナモックスや、付着固定化に関する研究に従事してもらい、研究室の発展に貢献していただいた。

楊教授との交流を通じて、楊教授から日本人以上に人との繋がりを大切にする人的ネットワーク作りの極意を教わった。私の方も楊先生にしていただいたことにお応えするよう力を尽くした。

楊研究室との付き合いがきっかけで熊本大学と大連理工大学の交流が活発になり、2002年には学部間交流協定を、2006年には大学間交流協定を締結した。また2011年には、楊先生の尽力もあり中国で2か所目になる熊本大学大連オフィスを開設することができた。

話は変わるが、2010年夏に韓国・釜山国立大学土木環境学院の金昌元教授から、研究室の学生に研究室を見学させていただけませんかとの申し出があった。折角の機会なので、学生主体のワークショップ(WS)をしませんかと提案し、釜山国立大学と熊本大学との間でWSがスタートした。金教授と情報交換するなかで、偶然にも金教授が大連理工大学の全教授と親交のあることを知り、第3回目のWSからは大連理工大学も加わることになった。その後、北里大学の清和成教授の研究室も加わり、四大学の学生WSに。私が、熊本大学を退職した後は大阪大学の池道彦教授に代わっていただき、2016年7月には、第9回のWSが大阪大学で開催された。今回から山梨大学の森一博研究室も加わり、益々活発なWSに発展しそうで、これも楊先生の取り持つ縁と思っている。

今回紹介したような楊教授のようなキーパーソンとなる研究者と信頼される人間関係を構築することが国際交流では必要となる。いきなりキーパーソンに辿り着くのは難しい。普段の出会いを大切に心のこもった交流を積み重ねることが早道である。


著者紹介 熊本大学顧問・名誉教授、古川水環境コンサルティング株式会社代表取締役

 

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