生物工学会誌 第94巻 第11号
広常 正人

日本で最近、オープンイノベーションが盛んに取り上げられるようになったのは、2003年のハーバードビジネススクール出版の「Open Innovation」からだそうである。これまでの組織内の研究者だけで技術開発を行い外部に商品を出すClosed Innovationに対し、外部の技術やアイデアを意図的に活用して得られた組織内部の革新技術を外部の新しい市場に向けて商品を出すのがOpen Innovationと定義付けている。

日本の企業のオープンイノベーションへの取組みは、欧米に比べて遅れているといわれている。グローバル企業であるP&G社が、2001年からオープンイノベーションを世界的に展開し、多くの実績を上げていることはよく知られている。日本企業にオープンイノベーションが馴染みにくいのは、独自技術の改善を積み上げて来たという歴史からかもしれない。しかし市場の急激な変化に対応し、また新分野の技術開発をスピードアップするには非常に有効な手段である。

企業のオープンイノベーションとして重要な位置を占めるのは、大学や公的研究機関との共同研究や委託研究である。しかし企業からは、研究が進展しても実用化の段階を迎えると、大学の産学連携本部やTLOといった組織との交渉に時間を取られて商品化が遅れる、といった声を聞くことも多い。技術の商品化のスピード感は、やはり最近注目されている大学発ベンチャー企業が勝っているように思われる。産学連携本部やTLOには大学で研究された技術の、将来の発展を見越した柔軟な対応をお願いしたい。

最近のオープンイノベーションでは、個々の技術を導入するだけでなく、モジュール化あるいは他の技術(たとえばIoT)との組合せによって、従来なかった市場を創造することが求められる。一つの分野の技術に異なる分野の技術を加えることによって、新しい顧客体験が実現でき、新たな市場が形成される。したがって、これからのオープンイノベーションの推進には専門領域を超えた、いわゆる「目利き」が必要とされる。

オープンイノベーションに取り組みにくい理由としてよく言われる企業の自前主義の他に、ニーズを公開すると開発の方向性を同業他社に知られる、その企業の技術開発レベルが明らかになってしまうという問題がある。

以上の課題への対応として、企業に対する非公開(Closed)のオープンイノベーション(Open Innovation)を支援する機関が数年前から各地にでき始めている。筆者は今年度から、その一つである公益財団法人のオープンイノベーション支援事業のお手伝いを行っているが、社名を公開しニーズ情報をWebサイトに掲載する本来の(オープン型)オープンイノベーションよりも、非公開でニーズ情報を支援機関の技術コーディネーターに限定する(クローズ型)オープンイノベーションが増えている。主に大企業のニーズと、中小企業または大学・研究機関のシーズをヒアリングして、マッチングするのが支援機関の技術コーディネーターの役割である。

非公開オープンイノベーションの欠点として、マッチングが技術コーディネーターの知識、経験や人脈に負う部分が大きいことがあげられる。しかし、各支援機関のコーディネーターは、多様な分野の公設試験機関や企業の実績のあるOBで構成されており、さらに各地の機関と連携して広域のマッチングを行うので、製品開発だけでなく新しいビジネスモデルやサービス提供を実現する、これからの日本のオープンイノベーションに適しているのかもしれない。

企業側の技術課題ニーズだけでなく、実用化直前のシーズ技術があれば、各地の経済産業局や公益財団法人のオープンイノベーション・ソリューションサイト(たとえば、大阪産業振興機構:https://www。mydome。jp/open-inv/、関西文化学術研究都市推進機構:https://kri-open-inv.jp/needs/など)で一度、最新のオープンイノベーションを調べてみることをお勧めする。


著者紹介 大関株式会社総合研究所(シニアアドバイザー)

 

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