生物工学会誌 第94巻 第2号
福田 秀樹

日本生物工学会80年史に記述されている名称変遷の歴史をみると、大正12年(1923年)に大阪高等工業学校醸造科の醸造会を源流として発足された「大阪醸造学会」が設立されて以降、醸造、発酵の分野に生物化学工学という新しい研究を取り入れるため、昭和37年(1962年)に「日本醗酵工学会」へと改組改名されたとされている。さらに平成4年(1992年)には、微生物に加えて広く動植物をも取り扱う学会として成長発展することを期して「日本生物工学会」と改称され、学問領域の拡大に伴って学会は大きく変貌をとげ発展してきた。現在の学問領域は、発酵工学、生物化学工学、生体情報工学、環境工学、酵素工学、動植物細胞工学、生体医用工学となっており、生物科学分野の基礎学問の発展と工学や医学などの学問分野との連携によって育まれる学際分野への展開に大きく寄与している。

さて、最近の国立大学法人においては、さまざまな議論をベースに「大学の機能強化」が強く求められ、各国立大学法人は特徴のある改革を推進している。神戸大学は、明治35年(1902年)創立以来の理念である「学理と実際の調和」を実践するため、新たな学際分野の創出とそれらによって生み出される成果の社会への普及を図るため、分野横断型組織を積極的かつ戦略的に構築してきた。

平成19年(2007年)には、理学、工学、農学、海事科学の4部局から構成される大学院自然科学研究科をそれぞれ独立した研究科組織に再編成すると同時に学際分野を発展させるため、選抜された戦略的研究チームが核となって構成される「自然科学系先端融合研究環」を設置した。本研究環は、学際性と総合性の調和を考慮した教育研究を推進する組織である。

学長に就任して以来、平成23年(2011年)には、人文・人間科学系、自然科学系、社会科学系、生命・医学系の分野に所属する教員メンバーにより構成される「統合研究拠点」を神戸ポートアイランド地区に設置し分野横断型の先端的融合研究の推進を図った。本拠点では、バイオリファイナリーや先端膜工学のグリーンイノベーション分野、創薬や健康学のライフイノベーション分野、惑星科学や宇宙開発のフロンティア分野、そして計算科学分野に係わる総計10チームによる先端融合研究プロジェクトを発足させた。

そして、平成24年(2012年)には、経済、経営、法学などの分野に所属する社会科学系5部局の教員メンバーから構成される「社会科学系教育研究府」を設置した。本教育研究府は、学際的理論研究だけでなく産学連携で事業創造に関連した研究や臨床型のフィールド研究も行う実践型の教育研究を実施する組織である。

このようなさまざまな分野横断型組織においては、異分野の研究者間でのコミュニケーションが促進され学際領域における研究成果が数多く創出されている。

ところで、近年我が国ではエネルギー問題や地球環境問題などグローバルな難題を克服し日本の国際競争力を高めるために、科学技術イノベーションを自ら創出できる力を持った理系人材の育成が急務とされている。このような社会的ニーズに対し、神戸大学では経済学、経営学、法学などの社会科学分野と医学、工学、農学、理学、システム情報学など自然科学分野の構成員が一体となった「科学技術イノベーション研究科」を設置することとした(平成28年度設置予定)。本研究科は、神戸大学がフラッグシップ研究と位置づける重点4分野(バイオプロダクション、先端膜工学、先端IT、先端医療学)と事業創造に焦点を当てたアントレプレナーシップとの融合による日本初の文理融合型の独立大学院であり、産業界のさまざまな分野から求められているイノベーションを推進するリーダーとして活躍できる理系人材の養成を主眼にしている。

このように、学問の深化と領域の拡大を促す新たな学際領域の構築は、組織基盤の強化につながるものと思われる。


著者紹介 神戸大学名誉教授

 

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