生物工学会誌 第94巻 1号掲載
五味 勝也

私が会長を拝命してからほぼ半年が過ぎました。その間の10月末に鹿児島で開催された年次大会では、過去最高の一般発表数と参加者数を数えました。天候にも恵まれ成功裡というよりも、大成功のうちに終了しました。私の力が及ぶところではないとは言え、本当に嬉しい限りでした。大会を企画し、滞りなく開催運営に当たられた九州支部の会員の皆様方と、特にご苦労の多かった鹿児島大学をはじめとする地元の皆様方には心より御礼申し上げる次第です。申すまでもなく、年次大会は学会のもっとも重要な活動の一つです。大会が多くの会員の参加を得て盛況に行われることは、私たち本部役員一同、強く望んでいることです。しかし、実際に開催運営するとなると、担当いただく支部の皆様のご努力に頼らざるを得ない状況にあります。

今回の大会に関しては、開催地が各地からの交通の便に必ずしも恵まれているわけではなく、私の場合でも、自分が住んでいる仙台から鹿児島までの直行便がありませんでした。また、企業の採用選考開始が半年ほど遅くなり、もっとも成果が出始める修士2年の学生が、学会要旨の申込時期に、就職活動に時間を費やさざるを得ませんでした(私の研究室でも修士2年の発表はありませんでした)。これらの要因が発表数にどのような影響を及ぼすのか、少し不安に思っておりました。しかし、いざふたを開けてみれば、このような不安はまったくの杞憂に終わりました。大会の成功はひとえに会員の皆様方の学会へのご協力の賜物と感謝申し上げる次第です。

さて、大会の成功を喜んでいるばかりではなく、会長として大会や学会運営の将来像も考えておくことが必要と感じております。ここ数年の年次大会では、一般講演はポスター発表で行われていますが、この発表形式については会員の皆様にも賛否両論あるかと思います。国内外の学会では、ポスター発表が一般的になってきていますが、学生のプレゼンテーション能力の向上など、教育的な面を考えると口頭発表という形式も重要です。口頭発表は受動的で聴いているだけで、内容が理解できるという利点があります。その一方で、発表が一過性で、聞き漏らしや不十分な理解につながる恐れもあります。また、質疑応答時間が限られていることや、質問があまり多く出ないケースもあり、必ずしも十分な討議が行えていないこともあると思います。一方、ポスター発表では、参加者が積極的に内容を読み込む必要がありますが、詳細なデータをじっくり検討することができます。また、発表者との緊密な質疑応答が可能であるなどの利点もあります。実際に学生に大会での発表を勧めると、ポスター発表を好む傾向があります。したがって、年次大会でポスター発表の形式をとることは、発表数増加の一因になっているかと思います。大会での発表数、ひいては参加者数の増加は、学会の財政事情も考えると重要な点であります。このようなポスター発表の利点を活かしていくことは大事だと思いますが、口頭発表の良さも活かせていける方策があると良いと思っています。発表数が800件を超すという中規模以上の大会に発展してきた中では難しいのかもしれませんが、学生などの若手研究者を対象にし、いくつかのトピックスをショートトークのような形式で発表してもらうという方法も検討する価値があるのかもしれません。

今回の大会では、主には学生かと思いますが、多くの若手研究者からの発表がなされました。ここ数年の会員数の推移をみると、学生会員数がやや増加する一方で、正会員数はやや減少傾向にあるように見受けられます。学生に限られるわけではありませんが、大会で発表するだけのために会員になるのではなく、会員としてのメリットを感じてもらえる、会員になって良かったと思えるような学会の在り方を考えていくことが重要だと思っています。これは本学会に限られたことではなく、簡単にできることでもありません。会員の皆様のニーズをしっかり把握し、少しでもそのよう学会の方向性が見いだせれば嬉しいと、今回の大会の盛況ぶりを見ながら感じた次第です。


著者紹介 東北大学大学院農学研究科(教授)

►生物工学会誌 –『巻頭言』一覧