【随縁随意】夢を紡ぐ、夢を繋ぐ – 園元 謙二
生物工学会誌 第92巻 第1号
会長 園元 謙二
30世紀の西暦2922年、惑星連邦生物工学会は創立1000周年を迎えた。惑星連邦生物工学会は、21世紀の日本生物工学会、22世紀の地球生物工学会などを経て、24世紀の星間連邦国家設立に伴って、連邦加盟惑星の生物工学に関する研究の進歩普及、人材育成の推進、産学連携の促進、人的交流の促進、星間連邦国家協力の促進を図り、もって惑星連邦の学術および科学技術の振興、福祉の発展に寄与することを目的として拡大・改組されたものである。
約300の惑星および植民星が加盟している。これまでの科学技術の進展より、21世紀では不可能と思われたSFもどきのことが30世紀では実現している。たとえば、21世紀初頭に明らかとなった物質に質量を与えるヒッグス場は宇宙空間に常に存在しているため物質を光子のように光速で動かすことができないと言われていたが、ヒッグス場を瞬間的に遠ざける技術革新によりいわゆる『ワープ』が最近可能となった。また、星間連邦国家ではいくつかの種族が独自の言語を使用しているため、高性能な宇宙翻訳機は24世紀に早々と開発されている。
一方、生命科学分野では、生物ゲノム情報の解析が進み、休眠遺伝子やジャンクDNAなどの機能が明らかになり、合成生命の誕生や合成微生物からヒト臓器の作製などが実現している。さらに、記憶の階層研究が進み、コンピュータでの情報の保存・上書きに相当するヒトでの他者の記憶の転移などが可能となっている。しかし、高度の記憶情報処理、たとえば記憶の干渉・再構成やインスピレーション力、セレンディピティなどは未開拓事例である。場面が変わり、惑星連邦下の学会では、加盟惑星の種族、年代の相違による交流の低下と次世代の育成が問題になり、連邦理事会・代議員会で議論が続いている。
“これは21世紀の学会と同じ悩みだ。学会の伝統を重んじ、かつ新たな進展を担う次世代の若手育成は30世紀の科学技術でも対処できないのだな!”と思っていると目が覚めた。前述の夢は、子供の頃、ガガーリンの人類初の宇宙飛行(1961年)、人の月面歩行(1969年)に歓喜し、テレビの『宇宙大作戦』やその後の映画『スター・トレック』で空想し、そして私自身の科学的瞑想の世界から生まれたものであった。面白い初夢を見たものだ。
ここ数年、生物工学若手研究者の集い(若手会)の夏のセミナー(泊まり込み合宿)に参加しています。他には若手会の幹部との飲み会などを通じて、次世代を担う若手を知り、交流する喜びを感じています。この過程から私は今後も次世代を担う若手が続々と出てくると確信しています。ただし、人材育成に携わる年齢になった者(シニア)が若手との交流で大事にすべきこととして、SNSでも可能な単なる“チャット(雑談)”ではなく、Face to Faceを最大限利用した会話、特に目先の課題より自らの経験・情熱などを語りかけ、彼らの興味をかき立てることから始めるとよいと思います。
シニア自身は独自の価値観を持っていますが、その範疇を飛び越える若手にも寛容である、むしろ喜びとする余裕が必要でもあると思います。望外には、彼らの夢や才能を引き出すことができ、自らも高揚できればと思います。夢を紡ぎ、次世代に繋ぐためには、若手との共感・共有からスタートし、若手に学会のことを知ってもらうことも重要と思っています。右頁の提言は、2013年7月、宮崎での若手会の夏のセミナーで講演した際の私の要旨から抜粋したものです。大学人としての私の経験と価値観が背景にありますが、若手に少しでもお役に立てればと思います(准教授、教授版もありますが、ここでは割愛します)。なお、別の機会に産での人材育成をぜひお聞きしたいとも思っています。
異色の年頭所感となりましたが、年代を超えた交流の促進が30世紀の科学技術でもなし得ない世界へ我々を導いてくれると信じて、年頭のご挨拶といたします。
≪大学の3つの階層(年代別)への提言≫
学部生、修士課程学生
- 目標とする人を持つ
- 深く考える(脳に植えつける)
- きちんと学ぶ姿勢が大事、これがないとどんなサポートをしてもダメ
- この時期は研究に没頭する時期
- エリート意識を持つ
- 実験事実は経験を凌ぐ!
- 常に問題意識を持つ(なぜ?など)、ここからInspiration, Serendipityが始まる、これがないと単なる技術習得になる
- 真面目は最大の長所であり、欠点でもあることを認識する
- 先生や年長者を恐れるな!同じ研究者として対話する、ただし、敬意は払う
博士課程学生
- こだわりは持つ、しかし諦める決断も大事(頑固と柔軟性)(独りよがり、唯我独尊に陥らない)
- 取捨選択、視点を変える
- 自分と同じ人間は居ない!先で待つ余裕、意外な(想定外の)展開と喜び
- 異分野の人とつき合う、特に世代を超えて
- 世界にはすごい研究者が居る!
助教
- バックグラウンドは大切に、しかし他分野へのチャレンジ
- 個の力と集団・組織の力(1 + 1は?)、個性か組織か? → 旗印の重要性
- 道場破りをする(新たな刺激と展開のために)
- 集中と開放:研究を離れる時を持つ、研究は人生の一部
- エリートを育てる、すべての学生?
- 世界のトップに立つことをいつも意識する、困難を伴うがチャレンジする気持ちがないとダメ