生物工学会誌 第91巻 第11号
浅野 行蔵

技術士(Professional Engineer)という制度がある。産業分野のほぼすべてをカバーする21の技術部門に 専門が分かれており、生物工学部門もその一つである。私は企業経験があったこともあり、紹介されて技術 士試験を受験し、幸いにも技術士となれた。現在は学生に技術士(補)になることを大いに勧めている。

私どもの学生のほとんどは修士課程に進み、修了後は産業分野へと巣立ってゆく。技術士(補)であると、 社会へ出てからの技術ネットワークを拡大しやすいことに気がついてからは、積極的に学生に受験を勧めて いる。

技術士とは国による資格認定制度(文部科学省所管)で、国によって科学技術に関する高度な知識と応用 能力が認められた技術者という位置づけになっている。

発端は、第二次世界大戦後、吉田茂首相からの荒廃した日本の復興に技術者の奮起を促すことへの強い要 請を受けたことにあり、「国の復興に尽力し、世界平和に貢献するため、社会的責任をもつて活動できる権 威ある技術者」を資格化するため、米国のコンサルティングエンジニア制度を参考に「技術士等の資格を定め、 その業務の適正を図り、もって科学技術の向上と国民経済の発展に資することを目的」とした技術士法が制 定された(1957年)。生物工学部門は、18番目の部門として新設された(1988年)。

私が学生に技術士(補)になることを薦めている理由は、生物工学部門の活発な活動の中に入ることで得 るものが大きいからである。第2土曜日には、会員同士の発表会、外部講師の講演会などを開き、発表後の 多様な質疑応答では、参加者の知識と経験の幅の広さを感じることができ、発表が2倍おもしろくなる。年 に1度は、見学会でいろいろな地域の会社や研究所を訪問している。運営は、それぞれ職を持ちながらのボ ランティアで、多様な企画を進めている。もっとも活発なのは東京だが、地方でもそれぞれ活動している。 北海道も人数は少ないが定期的な集まりを開いている。

生物工学部会は、1990年に合格者8名によって活動グループとして発足し、技術士121名、技術士補179 名(2013年現在)に成長した。若い技術士補が多いのも特徴である。出版活動も熱心で10周年記念「バイ オの扉」(2000年)、「もう少し深く理解したい人のためのバイオテクノロジー」(2007年)、「翻訳 バイオエ レクトロニクス」(2008年)、「新 バイオの扉」(2013年)と上梓している。

生物工学分野はどんどんと発展しており裾野も広がっている。学会では出席しないような分野の話を聞い て、新たな発想が浮かぶことも多い。社会へ出てからは、会社を超えて同業あるいは近い分野での気の置け ない友人を作るチャンスが少なくなる。切磋琢磨できる友人を得られることが、私が学生に技術士(補)を 薦める大きな理由である。種々の会の後には懇親会があり、情報と熱い気持ちの交流となっている。その中 で互いの技術の機密部分は尊重するマナーも学ぶ。

技術士1次試験に合格すれば、公益法人日本技術士会に登録することによって技術士補となる(登録料 と年会費が必要)。技術士補から技術士へは、2次試験を合格する必要があり、合格率は10~30%程度である。

シニアの方も技術士になられることをお勧めします。技術屋の長年の目的として定年とともに受験される すばらしい方々もおられます。若い人と飲むのも楽しく、若い人にご自身の知恵と経験を伝えるのも喜ばれ、 そして若い人と意見が合わないこともあり、その中から新しいアイデアもわいてきます。シニアも楽しめる 技術士生物工学部門です。


著者紹介 北海道大学農学部応用菌学(技術士)(生物工学/総合技術管理部門)

 

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