【随縁随意】オープン・イノベーションの本格化を目指して-塚本 芳昭
生物工学会誌 第91巻 第2号
塚本 芳昭
近年、組織の外部で生み出された知識を社内の経営資源と戦略的に組み合わせる、もしくは社内で活用されていない経営資源を外部で活用することによりイノベーションを引き起こす、いわゆるオープン・イノベーションに注目が集まっている。製薬をはじめとするライフイノベーションの分野では、大学やバイオベンチャー由来の新薬が増えており、大手製薬企業を中心に自社の求める技術領域などを対外的に公表し、アカデミア、バイオベンチャー、他の製薬企業などからの技術導入、共同研究の形成などを活発に行うようになってきている。バイオマスから燃料・化学品などの生産を目指すグリーンイノベーションの分野でも、最近はバイオベンチャーと大手化学企業、大手化学企業同士の提携により、その実用化を早める動きが活発化しつつある。
なぜ今オープン・イノベーションが注目されるのか? 従来、日本の多くの企業の研究開発は、初期の段階から自社で取組み実用化を目指すという自前主義が多かったように思われる。一方、今日のバイオ関係企業のおかれた環境は、関連のサイエンスの進展のスピードが速く、また実用化に至るまでの投資資金の増大により事業リスクが拡大しており、企業単独の努力のみでは世界との競争に勝てないという現実がある。加えて社内で実用化されずお蔵入りしている技術を他社に移転すれば時には収益に寄与することも考えられないわけではなく、こうした動きは財務面からも高まっていくものと思われる。
一般財団法人バイオインダストリー協会は日本製薬工業協会などバイオ関係団体とともに、毎年10月にBioJapanと称するイベントを開催している。同イベントは1986年から開催されているもので、初期はバイオテクノロジーの普及啓発に重点がおかれていたが、近年はビジネス創造にイベントの重点をシフトしてきている。特に昨年は世界水準のビジネスマッチングソフトを開発・導入したこともあり、アジア最大のビジネスマッチングの場に変貌した。対象領域は製薬、診断、医療機器、バイオフューエル・リファイナリー、機能性食品、植物工場などバイオの出口全般にわたる。技術移転・導入、共同研究、事業提携などを真剣に求めるバイオベンチャー、アカデミア、大手・中堅企業群が参加し、3日間の期間中に3400件のビジネスミーティングが行われた。その後多くの成果事例が出つつあり、オープン・イノベーションを実現する場となったわけである。
仕事柄欧米の国々の方々と面談する機会が多いが、近年特に懸念していることは欧米からの調査団が中国、インド、韓国などを訪問するものの日本を素通りするケースが多いということである。市場の発展のスピードを考えるとやむを得ないとも思うが、イノベーションを引き起こすパートナーとしてはアジアでは日本がアカデミア、企業ともに群を抜いているはずである。ただし、これらアジアの国々のバイオ関連産業の育成に注ぐ熱意と資金は並はずれたものがあるうえ、欧米での留学経験者などの帰国により、日本が優位性を保持するには相当の努力が必要であろう。我々バイオ産業界としては、アジアでイノベーションのパートナーを探すには日本に行かないと見つけられないと世界の人々に再認識されるようにBioJapanの活動をさらに本格化させ、我が国バイオ産業の本格的発展に結びつけることを考えている。日本生物工学会所属のアカデミア、企業の方々には本年10月に横浜で開催予定BioJapan2013に是非ご参加いただき、ともに日本のバイオ産業の発展と雇用の創出に向けて活動いただければ幸いである。
著者紹介 一般財団法人バイオインダストリー協会(専務理事)