【随縁随意】生物工学会100周年に向かって – 柳 謙三
生物工学会誌 第91巻 第1号
副会長 柳 謙三
皆様新年おめでとうございます。昨年の創立90周年記念大会にご参加戴いた方、ご寄附を戴いた方、大会を表裏に支えて戴いた方、皆様誠に有難うございました。学会も次の100周年を視野に活動する新しい年となりました。振り返ればCPUの2000年問題に始まった21世紀も早や最初の10年を終え、2nd Decadeも3年目に入りました。この十数年間世界の政治経済や社会は大きくChangeしている中、日本は停滞、相変わらずの相対的な後退状態と世界から見られています。
18世紀後半から19世紀に英国で起こった産業革命はベルギー、仏、独、米国、日本へとグローバルに伝播し、その恩恵で、マクロに見れば20世紀の世界は19世紀の人々の「願いや思い」が実現した世紀でした(ただし、戦争を除けば)。空を飛びたい、宇宙へ行きたい、より早く移動したい、病気をなくしたい等々、人々の熱い思いや意志がまず有ったことが、数々の革命的な科学技術の発展につながっていると考えます。もちろん、物事には光と影の様に両義性があり、手放しで社会に貢献したものばかりとは言えませんが、総じて、 世の中に役に立ち、人々に享受され、我々は先人達のその努力の恩恵を、強く受けていると言えます。さて、 この21世紀はどのような世紀になるのでしょうか?
20世紀後半に生まれた第二の産業革命といえるMicroprocessorの発明を含め、さまざまな発明や応用により、現在グローバル化やスピード化が急速に進んでいます。ある経営学部の先生の言では、スマートフォンなどはまるでブラックホールだと。つまり、電話機、計算機、ウォークマン、録音機、ゲーム機といったものがすでに絶滅危惧種になるほど次々に吸い込んでいってしまうと。それだけ革命的な技術と言えます。バイオの世界ではiPS細胞の発明もこのようなコアになる技術でしょう。生命科学や健康・医療の世界だけでなく、バイオエネルギーや環境バイオも、またナノテクやナノバイオのバイオミメティクス(生体模倣)技術も大きな可能性を秘めていると言えます。これらは21世紀の人々の「夢や願い」を適えるために大いに期待されていると言えるでしょう。その実現を支えるのは現在およびこれからの研究者・技術者であると確信しています。ただ、現在でも生命とは何か?物質とは?宇宙とは?の根源的未知な問題、現象は存在するがメカニズムは未解明な事柄は未だ多く、科学技術はまだまだ未熟であるとの基本的な認識が必要でしょう。
やるべき事、可能性は沢山あるということです。その上で、21世紀のこれから、ますます異分野間の連携や融合が必要であり、自然や生物・微生物に学ぶことがその未熟さの解明の戦略となると言われています。その際、バイオテクノロジーと生物工学を標榜する本学会が、学と学、産と学、学と社会との出合い、研究者と技術者の出合いや切磋琢磨を一つの場として提供できる学会として社会に貢献していくこと、それが学会のミッションの一つであるのではないでしょうか?
100周年に向かって、国際化、産学連携、若手育成などの基本方針に沿い、この10年間に試行錯誤はあっても、具体的戦略・戦術を立てて、一歩一歩実行していくことが肝要です。中でも若い研究者・技術者の育成・成長や努力こそが不可欠であり、これからの学会にとって必要なものでしょう。これからを担う人に言いたい。21世紀は皆様のもの、大いに「WillとVision(意志と発想)」を持って多いにWorkして戴きたい。ど真ん中も大事だけどニッチの世界にも目を向け 「No.1よりOnly 1 !」。明日は好むと好まざるとの拘わらず、いずれ現実となります。さらに乱暴に言えば「自信溢るる自己流は確信なき正統流に優る」と。大いに自信を持って進んでもらいたいものです。21世紀の人々の為、国際社会の為、これからの日本の為、学会の100周年の為、これからの10年が有意義なものとなる よう、危機感と大いなる努力と期待を持って進みましょう!
著者紹介 元サントリーホールディングス常務取締役、前サントリー生命科学財団理事長