【随縁随意】連携のすすめ - 島田 裕司
生物工学会誌 第90巻 第11号
島田 裕司
三人寄れば文殊の知恵、三人にして迷うことなしといった諺にもあるように、古くから連携の有効性は認識されている。実際、ものづくり産業界でも、さまざまな素材を使って材料が作られ、その材料を使って部品が作られ、いろいろな部品を集めて製品が作られるというピラミッド型の供給網が整備され、連携体制が構築されている。また、委託加工や委託生産も積極的に進められ、最近では流通業界まで巻き込んだPB商品も作られるようになり、生産効率を高めるための連携は定着してきた感がする。一方、最先端技術や高付加価値製品などの開発を目的とした連携は、行政施策の下で積極的に進められているものの、企業、特に連携をもっとも必要としている中小企業には意外と浸透していない。
最近のものづくり産業界では新製品の開発に必要な技術はますます専門化する一方、ボーダーレス化という、相反する方向にも進んでいる。当然、開発にかかる経費は飛躍的に上昇し、そのリスクも大きくなっている。この経費とリスクの低減化を図るために、大学や公的研究機関が活用されているが、連携事業の推進も有効なツールである。同じ専門領域の人が集まって高度な技術を作り出す縦の連携と、異分野の人が集まって新しい技術を作り出す横の連携が組み合わさったときにもっとも大きな効果が期待できる。
新技術、新製品の開発を目的とした連携事業は行政の下でたくさん企画されているものの、ものづくり企業における開発研究の観点からみると大きな成果は挙がっていない。その原因は、とにかく連携という体制を作っておけばよいというトップダウン型の課題設定とコンソーシアムの構築にあったと思われる。連携事業が成果を挙げるために一番大切なことは、明確で具体的な目標を定めた課題の設定である。次いで、連携を構築するパートナーの構成が重要である。
通常、一つの組織だけで目的を達成することができないから連携を求める。そのパートナーとして、目的の達成に必要な技術や材料を持っている企業を探す。当然より高い技術、より優れた材料を持つ企業が選択される。ところが、もし対象となる技術や材料を保有している企業が1社だけであるなら、選択の余地なくその企業がパートナーとして選ばれる。したがって、研究開発の一手段として連携というツールも考えるなら、他社にはない独自の技術を持ち、ナンバーワン、オンリーワンの材料や部品を提供できる企業を目指すことが重要となる。
このように考えると、組織においてどのような人材を育てるべきかが見えてくる。広い視野に立ち、かつ最先端の知識、経験、技術を持った人材が理想的であることはいうまでもない。しかし、連携を研究開発の一つのツールとするなら、限定された分野を得意とする人達を集めることによっても目的を達成できる。つまり、この分野では誰にも負けない、この技術は私しか持っていないといえる人材、加えてチームでも力が発揮できる人材を育てることも必要となってくる。
大量生産、大量消費に支えられた科学技術の発展は人類に大きな豊さと繁栄をもたらした半面、化石資源の浪費、地球環境の破壊という負の遺産も残してしまった。今後は持続可能な社会の構築を目指さなければならず、自然エネルギーの活用、省エネルギー、未利用資源の活用、廃棄物の減量と再資源化、長寿命化などをキーワードとした研究開発が求められている。また、生物工学の分野においては、環境調和型、再生可能な資源(生物資源)の活用、再生可能な製造・加工技術(生物反応)の確立が強く求められている。ものづくり産業界に共通したこれらの課題については連携体制も構築しやすく、研究開発の一つのツールとして連携事業はより一般化してくるように思われる。この大きな流れに乗り遅れないためにも、今後の企業の在り方を考慮しながら人材育成に取り組む必要があると感じている。
著者紹介 岡村製油(株)取締役 商品企画開発室長・前(地独)大阪市立工業研究所理事長