生物生物工学会誌 第102巻 第6号
章 超

「辰年」に入り、希望と機会に満ちた新たな始まりとなる。「辰年」は陽の気が動いて万物が振動し、活力旺盛になって大きく成長し「形が整う」年だといわれている。2023年までの長く苦しかった新型コロナウイルス禍がようやく明けた。貯め込んでいたエネルギーが爆発するかのように世の中が躍動している。日本生物工学会は2022年に創立100周年を迎えたが、辰年の2024年を次の時代へ向けて、明るく、楽しく、前向きに取り組み、学会の形をしっかりと整える1年としたい。

世界情勢や社会環境の変化が激しく、将来の予測が困難な現代は、volatility(変動性)、uncertainty(不確実性)、complexity(複雑性)、ambiguity(曖昧性)の頭文字をとって、「VUCAの時代」といわれる。このような時代において、我々(学会、企業、研究者)は急激な変化に対応して新たな価値を提供できるように変わっていく必要がある。そのために21世紀の経済社会における科学技術・学術の位置付けはこれまで以上に重要となる。技術の進歩とうまく付き合い、先端技術の実用化・商品化によって経済成長と新しい価値の創出を確実に実現していかなければならない。学会活動においては、情報共有・異業種との連携・技術の実用化および新しい価値の創造が求められる。私は産業界の人間であるが、学会活動を通してアカデミックの素晴らしい研究成果と優秀な人材に魅了されており、企業人として新しい技術の実用化・商品化への応用を大いに期待する一方、技術の産業転換と人材導入の難しさも深く感じている。本学会では、2023年度に産業界から初の会長が誕生した。これまで以上に研究者(学官)と企業(産)間の情報共有を密にし、お互いの課題解決を図ることを期待したい。私も理事の一人として産学官連携の架け橋として大切な役割を果たし、社会貢献に努めていきたい。

VUCAの時代に対応する一つの手段として、オープンイノベーションがある。2016(平成28)年に経団連が提言した「産学官連携による共同研究の強化に向けて」が背景となり、企業と企業だけでなく、企業と大学とのオープンイノベーションによる共創が加速している。この活動により業界や各立場を超えて革新的な製品やサービスを創造することができ、予測困難なVUCAの時代を生き抜くことが期待される。また国内市場の成長鈍化が見込まれる中、海外市場を急速に開拓し、グローバル化を進展させる必要がある。世界的レベルでの競争と共生のためには、海外への研究成果情報の発信、海外ニーズの把握が重要であり、さらにはコミュニケーション能力と新しい価値を創造する能力を持ったグローバル人材が必要と考える。こういう面においても学会には特に国外への技術交流・発信および人材推薦などに力を入れ、アカデミックや企業にとって価値のある活動をすることが期待される。

産学官それぞれの立場によって本質的に求めることは異なるだろう。産業界は新しい技術による事業課題の解決や競争的優位性を得ること、アカデミア関係者は企業が期待する技術・情報の提供と、研究成果の実用化による社会的・経済的な価値の獲得を求め、学生は自身が携わってきた研究成果が就職活動に役立つことを期待している。また公的機関においては科学技術の向上に繋がる研究基盤の構築や地域産業の活性化を求めている。学会としては産学官の架け橋として各関係者とうまく連携し、それぞれの期待に添うような手助けをしていきたい。そのためには理事会の力だけではなく、会員の皆様の協力が必要である。是非積極的に学会活動にご参加いただき、ご意見・ご助言を賜りたいと思う。

最後に、未来の学会活動の主人公となる学生の皆さんには大いに学会を利用していただきたい。学会で積極的に自身の成果を発表し、参加者と直接会話することで研究交流や情報収集を行い、自分の目線で企業の最新の技術や製品、サービスを体感しながら自分の将来像を思い描いて欲しい。


著者紹介 霧島酒造株式会社 研究開発部(課長)

 

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