生物生物工学会誌 第102巻 第4号
青柳 秀紀

私は、恩師の田中秀夫先生(筑波大学名誉教授)のご紹介で日本生物工学会とのご縁をいただき、大学4年生の時に第39回大会(1987年阪大)で初めて学会発表をいたしました。時が経つのは早く、約37年にわたり本学会にお世話になり続けております(長いようですが過ぎてしまいますとあっという間です)。非常に幸運なことに、本学会の創立100周年記念事業1)に参加させていただく貴重な機会を賜り、改めて、本学会の伝統と素晴らしさを感じると共に、本学会は、歴代の執行部、産官学の会員、事務局、関係する多くの皆様のご努力、熱い想い(愛情)、人と人とのつながりがベースとなり育まれてきたことを実感する場面が多くございました。生物工学の産官学に関わる最新情報を得るのみならず、本学会でのさまざまな活動を通じて、得られる経験、多様な世代、専門性、視点をもつ会員様とのご縁は素晴らしく、産学連携や共同研究にもつながることが多々あります。

1972年と2022年にローマクラブのレポート“The Limit to Growth”および“Earth for All: A Survival Guidefor Humanity”がそれぞれ発表され、SDGsが誕生しています。生命・環境・人間が調和した持続可能な未来社会の創造が必須であることは誰もが共通認識を持つようになり、バイオエコノミー社会の実現も謳われる中、次の100年に向け歩み始めた本学会が学界や社会に果たすべき役割への期待はますます大きくなっています。

2004年の独法化以降、講座制など大学の環境は変化し続け、現在、PIとして研究室運営をしている先生も多いと思います。私は講座制で11年間、PIとして16年間、大学に勤務しておりますが、PIには講座制とは異なる良い面がある一方で、課題もあるように感じております。また、研究(あるいは教育)では“ひらめき”が大切ですが、“ひらめき”は研究(あるいは教育)について考えに考えを重ね抜いた中で、「ぼおっとしている状態」の時に出ることが多いと言われています。もしかしたら日々に忙しい先生方には時間的、心の余裕がなく、“ひらめき”が出にくい面があるかもしれません。私は研究、教育にPI として取り組む中で、支部活動も含め、本学会で繋がりました多くの産官学の会員様にご相談に乗っていただき、ご助言をいただくことで、励まされ、助けていただきました(良いご縁に恵まれてまいりました)。

また、研究室の学生達と接する中で感じていることですが、最近は価値観が非常に多様化すると共に、さまざまな情報が簡単に手に入り非常に便利なのですが、逆にそのことについて深く考えて判断したり、推測したり、周りの人とそのことについて話す機会や、直接的な実験以外の議論(あなたはなぜ科学をするのか? 2))が年々、減っている感じがいたします。天然資源に乏しい日本において資源の一つは人であります。明治、大正時代の政治家 後藤新平(医師、拓殖大学学長)は「財を遺すは下、仕事を遺すは中、人を遺すを上とする」と遺しています。システムが変化しても組織や社会を構成しているのは人であり、その多様性が組織のポテンシャルに、考え方、目的意識や方向性のトータルが組織全体の活性に反映することに変わりはないと思います。このような現状の中、今後、生物工学に関する研究、教育、人材育成の面でも、本学会や支部が担う役割や重要性が増えてくると思います。また、他ではできないような長期的視点に立ち、議論できる場としての役割も重要だと思います。

私が大学院生の時に集中講義にいらっしゃいました著名な先生が、「オリジナルな研究をなさい。あまり流行を追わず自分が興味のあることをこつこつ続けるといつか花が開くものです」とお話しされていました。時代に合っているかはわかりませんが、個人的には大切だと想いますし、それが良いとも思っています。実際に、興味を持って実験に取り組む中で見いだした予期しない現象から研究が展開することが数多くあることも事実であります。実験中に予期しない現象に出会うことは、多くの研究者が経験していると思います。それを見逃さず、解明を進め、創造愉快に創意工夫してゆくと、新しい分野の開拓につながる場合が多いと思います。

以上、生物工学会とのご縁についてとりとめなく勝手な内容を書いてしまいましたが(ご無礼の段、お許しくださいませ)、ぜひ(特に若い皆様は)、今よりも一歩踏み込んで積極的に本学会に参加する(参加し続ける)ことをお薦めいたします(良いご縁に恵まれますよ)。今後ともご指導ご鞭撻、幾久しく宜しくお願い申し上げます。

1) 日本生物工学会「創立100周年記念事業」: https://www.sbj.or.jp/centennial/(2024/1/22).
2) Nature, Career Column (04 January 2024): https://www.nature.com/articles/d41586-024-00011-0 (2024/1/22).


著者紹介 筑波大学 生命環境系(教授)

 

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