【随縁随意】明るく,楽しく,前向きに!– 岡 賀根雄
生物生物工学会誌 第101巻 第12号
岡 賀根雄
2022年の創立100周年記念大会の成功、および記念事業の順調な滑りだしをお祝い申し上げます。私は募金担当として準備に携わらせていただきました。この厳しい社会・経済環境の中、ご寄付いただいた企業、団体、そして個人の皆様に心からのお礼を申し上げます。おかげをもちまして、当初予算を越える金額を頂戴することができ、学会の将来にとって喜ばしい結果となりました。募金集めにご尽力いただいた先生方にもお礼申し上げます。
さて本題です。自分自身はまだまだ若い、少なくとも年寄りだとは思っていなかったのですが、はや還暦を迎え、更にはこんな原稿を頼まれるようになり、現実に目を向けざるを得ない状況となりました。2019年に理事をお受けするまで学会活動とは無縁で来たため、私に語れることは限られていますが、将来を担う若者の皆さんに向けて、何某かの役に立てればと思って書き始めます。「人生の最大幸福は職業の道楽化にある」これは、本田静六さんの『私の財産告白』(実業之日本社文庫)に収められた『平凡人の成功法』という文章の言葉です。私がこれを知ったのは50代になってから。「もっと若い時に出会いたかった」と思いましたが、これまでを振り返って、「そうそう、そうだよな」とうなずくことしきり。「思った仕事と違った」「仕事に興味が持てない」と言って、好きで選んだはずの職業を何年も経たずに辞めてしまう若者が増えてきています。そんな中、多くの人に読んでもらいたい名著です。もう少し引用します。「職業を道楽化する方法はただ一つ、勉強に存する。」「あらゆる職業はあらゆる芸術と等しく、初めの間こそ多少苦しみを経なければならぬが、何人も自己の職業、自己の志向を、天職と確信して、迷わず、疑わず、一意専心努力するにおいては、早晩必ずその仕事に面白味が生まれてくるものである。一度その仕事に面白味を生ずることになれば、もはやその仕事は苦痛でなく、負担ではない。歓喜であり、力行であり立派な職業の道楽化に変わってくる。」
もう一つは遊び心を持ち続けるということ。ペニシリン、ダイナマイトなど、世の中の発見や発明に失敗や偶然がきっかけになったものは少なくありません。その失敗を意図してやってみようということです。企業で研究開発に携わっている人は、それが実用化に近いほど、最適値を求める実験を計画することになります。しかし小スケールの実験であれば、敢えて水準を大きく振ってみる遊び心を持ってもいいのかもしれません。私の職業であるビールの分野でも、現在普通に飲まれている淡い色合いのビールは、「色付けのための黒麦芽を入れ忘れてできたのだ」という伝説があります。意図して水準を大きく振ったのか、本当に入れ忘れたのかはわかりません。入れ忘れたとしても、失敗だとすぐに捨ててしまうのでなく、ビールにまで醸してみて、今までにない美味しさを発見したのだと思います。同じ意味で、意図しない異常点にも大きなチャンスが隠されているかもしれません。しっかり考察しておく必要がありそうです。
三つめは出会いを大切にするということ。自分の考えられる範囲なんて小さなもの。いろんな場所に出かけ、いろんな人に会い、経験し、それで気づかされることの何と多いことか。直接仕事に役に立つヒントになるかもしれませんし、新しい活動につながるかもしれません。また自分の価値観や人生に影響を与えてくれる出来事に出会うかもしれません。時間がない、興味がない、と言って捨てるのは簡単なのですが、「遊びで行ってみようか」これでいいのです。舞い込んできた情報やきっかけに少しの時間を割く。これが人生を豊かにしてくれるかもしれません。皆さんには大きな可能性があります。自分を小さく規定することなく、好きなことで大きな夢を描いて、突っ走ってください。夢大きく!明るく、楽しく、前向きに!
著者紹介 サントリーホールディングス株式会社(取締役専務執行役員)