【随縁随意】オープンイノベーションの最初の一歩は学会参加!– 髙下 秀春
生物生物工学会誌 第101巻 第11号
髙下 秀春
年号が「平成」から「令和」になって久しいが、人々が美しく心を寄せ合うには程遠く、混沌とした先の読めない時代に突入した.酒類業界の中でも焼酎業界は、グローバル化を進める上で自分自身の強みが何であるのかを知ることが大事である。
最近の日本産酒類の輸出動向(https://www.nta.go.jp/taxes/sake/yushutsu/yushutsu_tokei/index.htm)によると、輸出金額は初めて 1,000億円を超えた 2021 年に引き続き、2022年分でも 1,392億円(対前年比+21.4%)と好調に増加している。品目別ではウイスキーが 561億円、日本酒が 475億円と大きく牽引している。これは、両者が長きにわたる海外へのアプローチを継続してきたからこその結果である。日本酒業界は、同じ醸造酒であるワインの世界展開に着目し、コンペティションとの連携や伝統的な日本食(和食)とのマリアージュなど、ワインの評価基準を通して輸出先のお客様に日本酒の価値の理解を促した。一方、焼酎の 2022年の輸出金額は 21.7億円で日本酒の 5%にも満たない。日本酒では 10年以上連続して過去最高を更新しているが、焼酎での対前年増減率は 2020 年以降にようやくプラスに転じて今に至っている。まだ、小さな兆しだがその上向きのベクトルをさらに推進する手段の一つとして、焼酎自身の強みを認識し、その価値をモノ・サービスに付与して世界に発信することが必要である。2022年に日本の國酒である日本酒、本格焼酎・泡盛、本みりんなどの「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産の提案候補として選定された。また、日本では蒸留酒である焼酎が食中酒として定着しているという、世界でも類を見ない飲酒文化がある。そこで、筆者の所属する三和酒類株式会社では焼酎を「麹文化の蒸留酒」として定義し、焼酎製造における麹を利用した「伝統的酒造り」のまだ解明されていないメカニズムを知ることを目指している。それが、焼酎に秘められた新たな価値を発見し、アウトプットとして世界標準の価値ある商品開発に繋がるものと確信している。
そのためのアクションとして、当社にて基礎に近い研究を自前主義で行うには限界がある。また、環境変化が激しい現在では、オープンイノベーションが重要となってきている。オープンイノベーションとは、組織内部のイノベーションを促進するために、意図的かつ積極的に内部と外部の技術やアイデアなどの資源の流出入を活用し、その結果組織内で創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすための手段のことである 1)。
外部との連携を強化したい企業としては、共同研究など外部機関とのマッチングが最初の一歩となる。オープンイノベーションを促進するしくみとして、ニーズとシーズをマッチングさせる場の提供やプラットフォームを介したサポートなどがある。しかしながら、オープンイノベーションという言葉がない時代から、企業のニーズに対して自らが探索し、マッチングする研究テーマや研究技術を有する外部機関と共同研究するまで展開する場として学会が存在している。当社のような醸造・発酵関連の研究領域を探索する目利きを養う場としても日本生物工学会は重要である。初代三和研究所所長の故和田昇相談役から当社研究員は他流試合(学会に参加して学会発表、外部研究員との交流)をするように促された。筆者が入社した当時はネット環境が整っていなかったことから、醸造、発酵関連の学会に直接参加したことで最新研究の情報収集や人的ネットワークを広げることができた。外部連携を促進して「麹文化の蒸留酒」のアイデンティティを解明していくために、今後も学会参加を一つの足がかりとしたい。
最後に、オープンイノベーションのマッチングの場として学会を捉えたときに、発表時の導入部分で研究テーマがどのような課題に対して貢献できる技術であるかをニーズ側に立ってプレゼンしていただくことで企業にとってさらに価値のある学会になることを期待して筆を置きたい。
1) 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「オープンイノベーション白書(第三版)」:
https://www.nedo.go.jp/library/open_innovation_hakusyo.html (2023/5/26).
著者紹介 三和酒類株式会社(取締役)