【随縁随意】段階に応じたモチベーションの誘導~積極的に取り組む姿勢へ~ – 湯本 勳
生物工学会誌 第100巻 第6号
湯本 勳
毎年、大学に入学したばかりの1年生に2コマだけ講義を行っており、その一方で修士の学生さんにも何年かに一度集中講義を行っています。また、大学に在籍する海外からの留学生と一緒に研究を行っています。このようなスナップショットでのみ接している立場から学生さんに対する思いを記述させていただきます。
1年生の講義のテーマは「極限環境微生物学入門」であることから、講義の最後に「極限環境微生物に関する内容であればなんでもOKで、できるだけ自分の頭で考えたことがわかるようなレポートを作成してください」とお願いしています。こちらの意図は、頭を使って企画して独自の考えを書いてもらうことにあります。受け取ったレポートのうち、毎年10 %強は非常に興味深いものや後々まで印象に残っているものがあります。たとえば、講義で説明した核心部分を分かりやすく、より身近な例を使ってたとえ話に置き換えて説明しているものや、レポート以外の選択肢として簡単な設問に簡単に答えるという形式を提示していますが、それに対して講義の内容を含めたかなり詳細な解説を加えた解を作成したものなどがありました。印象に残るレポートを提出してくれた学生さんは講義の内容をよく理解し、レポートに上手に反映させていたことになります。モチベーションも高く、発想力も豊かな学生さんもいる中、素晴らしい個性が伸びるように誘導していくことは、重要なことだと考えています。
一方、修士の学生さんにも講義の終了後、同じような条件でレポートの提出をお願いしています。修士の学生さん達は皆それなりのベテランであることから、レポートのことを説明する際には「できるだけ自分の頭で考えたことが分かるようなレポートを作成してください」とはお願いしていません。このようなこともあってのことかもしれませんが、私にとって目を引くようなレポートの数は1年生の場合よりもかなり少ないのが現状です。修士の学生さんにとって私の講義やレポート提出に対する新鮮さはほとんど無く、単位をもらうために講義を受け身の姿勢で受け、仕方なくレポートを提出しているようにも見えます。こちらとしては、明らかにモチベーションの誘導に失敗しています。学生さん達の本当の実力を見るために、今後は修士の学生さんにはこちらの意図を十分説明するなど、嬉々として頭を使って取り組むための方策を考えなければならないと感じています。
最後に、海外から来る留学生の大学院生ですが、将来自立していかなければならない立場にいる意識が低いように感じられることが多いです。大学院では学部とは異なり「自分に合った良い問いを発見する能力」と「良い問いを解決する能力」や「トライ&エラーと思考を繰り返すサイクルにより可能性を少しずつ詰め、結果を手繰り寄せる能力」を伸ばすことが重要であることを分かってもらわなければならない場合が多いと感じています。プレゼン資料を見ると、得られたデータから何が言えるのかを考えやすいように情報整理をしたうえで、引き出せる事実は何なのかを真剣に考えた形跡はあまりみられないことが多く、自分で経験を深化させることの重要性や考えることは楽しいことをもっと分かってもらわなければならないと考えています。
大学に入学すると高校までとは異なり、さまざまな面で自由度が高まるわけですが、その自由度をうまく利用すれば独創性の高い「問い」を発見し、考える能力を養うことは可能だと思われます。それぞれの段階に応じたモチベーションの維持を通じて経験を深め、独力で「解」を発見する喜びを経験できるような頭の鍛え方を実践していくことが有意義な学生生活を送るために重要なのではないかと考えています。指導教官は学生との対話や研究に関する議論を通じて、学生が既成概念にとらわれず、答えが無いかもしれない「問い」に対しても嬉々として挑戦し、自らの夢や目標に向かって積極的に経験を重ねていくように誘導していかなければならないと考えています。
著者紹介 産業技術総合研究所(つくば第六事業所長)