生物工学会誌 第100巻 第2号
東 雅之

大阪市立大学工学研究科の東です。所属につきましては現在大阪府立大学との統合の準備を進めており、2022年4月には大阪公立大学として開学予定です。実現すれば学生数約1万6千人規模の公立総合大学となります。新大学におきましても引き続きご指導よろしくお願い致します。巻頭言のお話を頂き、大学の小さな研究室で長年研究しているだけですので躊躇しましたが、稀にはそのような立場からの話があっても良いかと開き直りお引き受けさせていただきました。

これまでの一会員としての日本生物工学会での活動を振り返りますと、年次大会を研究室の主要な発表の場として利用し、学生さんには研究室所属期間中に少なくとも1回は発表するように指導しています。今はコロナ禍ということで懇親会は開催されていませんが、醸造メーカーなどで開催される醗酵学懇話会に毎年学生さんを連れて行き、お酒を飲みながら楽しんできました。『生物工学会誌』のバイオミディアにも長年お世話になっており、大学院講義での学生の調査発表に利用しています。また、JABEE特別部会や研究部会において諸先生方と交流させていただき、年会費11,000円で十分元をとり楽しんでいます(小研究室なのであまり他学会に浮気できないという事情もあります)。関西地区では発酵(生物工学)野球大会が行われ、学会でお馴染みの大学関係者の皆様とも交流させていただいています。台風やコロナ禍の影響でしばらく開催できず、直近の大会で優勝してから長年優勝カップを研究室に置いています。再開を楽しみにしています。

少し研究室の話にも踏み込みますと、運営資金は毎年の悩みで、大型資金は難関ですので、小口資金を複数集めながらの運営で何とか凌ぐことを長年続け、修士課程の学生さんを中心に研究を回しています。研究室では微生物の細胞表層構造に着目し、それらの改変による工学的応用を目指しています。最近では、酵母の表層に化学修飾を加えた機能性材料を開発し1)、その応用を目論んでいます。それに関連してということもありますが、毎週行われる雑誌会でリチウム硫黄電池に酵母を活用するという論文の紹介がありました2)。リチウム硫黄電池は二次電池であるリチウムイオン電池の後継として注目を集めています。負極と正極に各々金属リチウムと硫黄を利用するリチウム硫黄電池は、大容量かつ低コストという面で期待される一方で、多硫化リチウムが電解液に溶け出し電池寿命が短くなるという課題があります。その解決に向けて、マンガンを吸着させた酵母を水熱・焼成処理し炭化して、セパレータのコーティング剤に活用しようとする内容でした。まだ検討段階の内容ですが、酵母を炭素の殻にして最新の二次電池に利用しようという発想が、酵母=エタノール発酵のイメージから抜け出せない人間には新鮮でした。対象を大きくは変えずに視点を変えて新たな土俵を見いだすやり方は、小研究室にとっては必須の作戦で、もっと頭を柔軟にということを考えさせられました。優秀な学生さんのお陰です。研究室の安定した運営、特に修士課程の学生さんが中心の研究室では、研究に魅力を感じている学生さんが集まってくれる研究室の空気感の維持が何よりも重要と思っています。当たり前のようで難しいところです。

学会においても、集まってみたくなる、少し楽しみにしているような空気感のある活動があると思います。国内の学会で会員減が続く中で、個人的には、忙しい中でも会員を継続する一線と思います。その辺りを大切にすることで、学会をうまく活用する仲間が増え、お酒好きの仲間ももっと増え、日本生物工学会が益々活性化することを祈願しています。

1) Ojima, Y. et al.: Sci. Rep., 9, 225 (2019).
2) Feng, G. et al.: J. Alloys Compd., 817, 152723 (2020).


著者紹介 大阪市立大学大学院工学研究科(教授)

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