【随縁随意】年頭所感 – 学会創立90周年を迎えて- 原島俊
生物工学会誌 第90巻 第1号
会長 原島 俊
会長を拝命して半年が経過致しました。昨年は、あの3月11日の東日本大震災とそれに伴う福島原子力発電所の事故が、日本のみならず世界を震撼させました。今も、東北の皆様は復旧・復興に大変な努力をされており、たとえ復興がなされたとしても、多くの亡くなられた方とご遺族の方々の御心情をお察しすると、新年ではありますが、とても明けましておめでとうと申し上げることはできません。ただ、会員の皆様におかれましては、ご無事で、少しでも心穏やかな新年であることを願っています。
さて、本学会は、昨年「公益社団法人」に認定され、これまで以上に社会への貢献が期待される学会として新しく出発致しました。そして、本年は、折しも学会創立90周年という節目の年であります。会長就任にあたり、「学から産へ」「日本から世界へ」「シニアから若手へ」という3つの目標を掲げ、この目標のもと、90周年記念事業準備委員会を設置して以来、会員の皆様方には、記念事業や醵金のことなど多大なご支援を頂いており、改めて厚く御礼を申し上げる次第です。
すでにご案内の通り、記念式典、記念出版、アジアの若手育成のための記念基金、地域との連携、国際シンポジウムなどの多彩な計画が進行中です。また、本年10月には記念大会を開催致しますが、上記の3つの学会運営目標に加え、「頑張ろうニッポン」とのコンセプトを掲げ、大阪大学教授大竹久夫実行委員長、田谷正仁、福崎英一郎のお二人の副委員長を中心に、産学官、国内外、世代を超えて記憶に残る記念大会とすべく準備が進んでいます。
振り返ってみますと、本学会は、この90年間、産業系学会として多彩な役割を果たしてきました。たとえば、その時代時代において、最新の生物工学の学問や技術を発信する場として新しい流れを創造・醸成する場となってきたこと、優れた学問や技術を創造した我が国の研究者のみならず、アジアの若い研究者、技術者を顕彰することによって、アジアの生物工学の発展にも貢献してきたことなど枚挙に暇がありません。
今後も、こうした役割を果たしていくことに変わりはありませんが、公益社団法人として、社会の要望に謙虚に耳を傾け、これまで以上に社会に貢献するとの自覚を持って学会活動を展開しなければと思っています。こうした社会への貢献に関連して、昨年11月17日に、今回の東日本大震災で大きな被害を受けた福島県西郷村(にしごうむら)で、「放射性物質と環境問題」をテーマとした生物工学シンポジウムを開催致しました。この内容については、紙面の都合上詳しく述べることはできませんが、約300名の村民の方々が参加をして下さり、その熱心さに驚きと非常な感銘を受けました。このたびの大震災と原発の事故は、研究者にとって、「学問と社会」との関わりについて今まで以上に深く考えさせられる大きな出来事でありました。これまで、自然科学にかかわる研究者は、ややもすれば、自然現象のメカニズムを解明することを最重要視してきたように思います。論文を出しやすいなど、評価のシステムも含め、いくつかの理由がそうせざるを得ない状況を作り出してきたためとは思いますが、西郷村シンポジウムで村民の皆さんと議論をして、科学や技術を基盤にした復旧・復興のシナリオをデザインできる新しいタイプの若い人材の育成が必要なのではないかと強く感じました。そして、産業系学会である本学会は、大学や国の研究機関あるいは理学系学会とは違う観点から、社会が直面する困難な課題に、バイオを利用して果敢に挑戦する若い研究者や技術者を支援する具体的な方策を考えなければと思った次第です。
学会創立90周年という特別な年を迎え、バイオテクノジーにより社会に益々貢献するために、会員の皆様の本学会への一層のご支援を御願いし、年頭のご挨拶とさせていただきます。