生物工学会誌 第93巻 第9号
高木 博史

筆者が支部長を務めている関西支部では、昨年度から産学官の若手人材の国際化を目的とした活動を始めている。たとえば、今年度は支部に所属する産学官機関から選抜した若手研究者に、タイバイオテクノロジー学会主催の国際シンポジウムにおいて、口頭発表の機会を与えるとともに、現地の企業と研究機関を訪問し、見学・討論を行うことで、タイを中心とする東南アジアにおけるバイオテクノロジーの現状を学ぶ機会を提供する。

こうした取組みは、本学会の重点化課題(国際交流・国際展開の推進)に支部として貢献できることの一つとして、今後も積極的に実施していきたい。また、学会としては「アジアの生物工学を先導する学会」を目標に、リーダーシップを発揮しながら、アジア諸国における関連学会との連携強化や若い研究者・技術者の顕彰などを行っている。一方で、おもに国内の大学で修学し、その数が増えている留学生についても、大学だけでなく、学会として彼らの育成・支援を組織的に行う時期が来ているかもしれない。

そこで、学術・経済の両面で発展が著しい東南アジアからの留学生について、所属大学で学生のキャリア支援を担当している立場も含め、最近感じていることを纏めてみた。

  1. 優れた留学生を育成する国(大学)に、高い意欲や能力を有する留学生が集まる
    現在、留学生の受入れは2008年に政府が発表した「留学生30万人計画」に基づき、急速に進んでいる。そのリクルート活動は以前の欧米や中国・韓国から東南アジア地域にシフトし、優秀な留学生確保のための競争が激化している。筆者もある国の首都のホテルで同じ目的で滞在している別の大学の知人と偶然会い、なぜか気分が凹んだ。大型の競争的資金として、大学の国際化を推進する国費留学生優先配置プログラム、スーパーグローバル大学等事業などで、数値目標の達成に苦労されている教職員も多いと思う。
     
  2. 最先端のコースワークと研究指導、およびキャリア支援が重要である
    筆者の所属大学では、活発な教育研究交流を展開している東南アジア4か国の連携大学から毎年10名程度の学生を選抜し、博士前期または後期課程に受け入れている。そして、英語による最先端バイオ分野のコースワークと研究指導を行い、博士号を授与している。在学中の経済的支援は十分に保証しているが、彼らの高い目的意識(学位取得)と教員へのリスペクトは多くの日本人学生も見習ってほしい。加えて重要なことは、個々の留学生のニーズに対応したキャリアパス教育と支援を通して、アカデミアや企業において東南アジアと日本との良好な関係の構築に貢献できるリーダー人材の育成である。今後は、アカデミア以外の出口支援も重要であろう。
     
  3. 留学生を研究室に受入れることで、日本人学生の国際化教育を実践できる
    留学生は日本人の学生へもさまざまな影響や刺激を与えている。筆者の研究室では、ミーティングやセミナーに日本人学生と留学生が一緒に参加し、ほとんどの場合英語で行っている。日本人学生にとって、欧米のnative speakerではなく、東南アジアの留学生と英語で会話することにそれほど抵抗はない。また、英語での実験指導や研究討論を行う能力が養われるだけでなく、相手国の文化や歴史を学ぶこともできる。こうした研究室活動や教育カリキュラムを通して、国境や国籍を意識せず、人類共通の価値観を認識する「グローバル人材」に必要な能力を身につけることができる。

大学としては、留学生に最先端の教育を提供し、学位を取得させた上で、日本での就職(アカデミア、企業を問わず)を支援することが優秀な留学生の獲得に直結するであろう。そのためには、大学・企業・国が密に連携し、国には留学生が国内で就職できる制度を充実していただき、企業には大学が育成した人材の就職機会を増やしていただければ有り難い。現在、本学会に所属している留学生は概数で100名弱である。関西支部も具体的な活動を通して学会組織と協力し、国際交流・国際展開の活性化に貢献したい。


著者紹介 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科(教授)

 

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