【随縁随意】アジアにおける今後の国際交流活動のあり方 – 小林 猛
生物工学会誌 第88巻 第4号
小林 猛
鳩山首相は「友愛」というキーワードでアジアとの関係を強めようとしています。日本のGDP(国内総生産、2008年のデータ)は世界第2位、中国は第3位で、インドは第12位ですが、2010年には中国が第2位になると予測されています。また、インドのGDPの伸び率は大変高いといわれています。このような状況を考えれば、鳩山首相の考えがすんなりとアジア諸国に受け入れられるかどうかは別として、日本はアジア諸国との交流、特に経済的な交流を今以上に強めなければ生き残っていけません。トヨタ、日産、ホンダは主として中国で、スズキはインドで多くの車を生産しており、この動きはさらに加速されるでしょう。
これと同様に、本学会もアジアとの関係を今まで以上に視野に入れ、交流を深めていく必要があると思われます。他学会と比較して、本学会は多くの先達の努力によってアジアとの関係を強めてきました。田口久治先生を始めとする大阪大学の先生方の努力は特筆されるものです。韓国生物工学会との学術交流も1998年以来着実に進められています。歴代の英文誌編集委員長の努力によって、J. Biosci. Bioeng.のアジア地域のEditorial Boardは現在9人が指名されており、アジア地域からの投稿論文数も着実に増えてきています。
人口では中国が約13億人で世界第1位、第2位がインドで約12億人、日本は約1.3億人です。中国とインドの人口は増加しているのに対して、日本は緩やかに減少しています。大学生数に関する詳しいデータは知りませんが、日本では大学への進学率が横ばいなのに対して、中国とインドは大幅に増加しています。
この両国の多くの大学での研究施設も急速に改善されてきています。これらの結果、ごく近い将来、両国の大学の研究能力は数の上でも、質的にも日本の大学に近づくか、場合によっては凌駕するでしょう。2009年5月にイギリスの教育情報会社Quacquarelli Symonds社が発表した2009年版アジア大学ランキングによれば、上位50大学の国別数は、日本16、韓国8、中国7、香港5、台湾とインド4、シンガポールとタイ2、マレーシアとインドネシア1、となっています。外国人留学生数や外国人教員数も評価対象に含まれていますから、評価の仕方が問題かもしれませんが、1位香港大学、2位香港中文大学、3位東京大学、4位香港科技大学、5位京都大学、という順番も衝撃的です。
これらの趨勢から、本学会がカバーしている学問領域における今後の研究者数は、これらのアジア諸国において日本より多くなると予想されます。さらに、もう少し時間的に後になるでしょうが、研究者の質も日本より高くなる可能性も有り得ましょう。研究者数に関しては、今以上に高校生に対する情報発信力を高めて、日本でのバイオ分野の研究者数が増える努力をするしかないと思います。本学会としては、国際会員などの制度を設けてアジアの会員を増やしたり、英文誌の論文掲載料を無料化するなどして、アジアの研究者が本学会の活動に参加しやすくする環境づくりも必要でしょう。
研究者の質に関しては、今以上の努力をもっとするしかないようにも思います。日本の教育界の悪い点は、自分の頭で考え、その考えを論理的に説明する能力の養成を怠ってきたことです。研究者を年齢別に見てみますと、若年層ほどこの訓練がなされていません。アジアとの関係では、自分の考えを英語で説明する必要がありますが、自分の考えさえしっかりしていれば、英語が流暢でなくても聴いてくれます。立花隆氏の英語でのインタビューを聞いたことがあります。英語は訥々としていましたが、きわめて論理的な内容でした。大学院のみならず、学部教育、さらには高校や義務教育においてディベートの訓練をすることが肝要でありましょう。本学会としては、どのような取り組みをすれば研究者の質が高まるのでしょうか。このことに関しては、会員各位はいろいろの考え方をお持ちでしょう。
これらのトレンドを念頭に、本学会がどのようにしてアジア諸国の類似の学会と共に協力しながら今後の国際交流活動を策定し、それを実行していくか、が重要であると思います。すぐには効果は出ないことですが、理事会などを中心として会員各位が議論をし、これまでの本学会の伝統をより強めていくことが望まれます。
著者紹介 中部大学教授、日本生物工学会名誉会員、名古屋大学名誉教授