【随縁随意】日本微生物学連盟の設立とIUMS2011-冨田 房男
生物工学会誌 第87巻 第7号
冨田 房男
「日本微生物学連盟が設立されてから1年経過したところで何を」と思われる方も多いでしょうが、一方、まだご存知でない方もおられると思い、ここでその内容と設立の経緯をご紹介したい。
まず、我が国の微生物学の状況について私見を述べてみたい。我が国は、微生物学部が存在しない数少ない国である。世界の多くの国々では微生物学部が存在し、広域にわたる教育、共同研究が行われているのに対して、我が国では、医学部では病原菌のみ、理学部では単に道具として、工学部と農学部では応用にとその興味の対象としての存在でしかなかったように思われる。総合的な微生物学としては存在し得ない、あるいは研究の材料としての意義しか考えていなかったのであろう。
その結果として、学会も狭い範囲の小さなものがたくさんあるが、外から見ると日本の微生物学を代表するのはどこなのかも分からない。たとえば、国際微生物学連合(International Union of Microbiological Societies, IUMS)から見ると日本の対応学会はどこなのかが分からないことになる。
そこで日本学術会議の下にあった微研連(微生物学研究連絡会)で上述のような我が国の微生物学分野の統合について議論が開始された。その中でIUMSの副会長に私が選ばれ、実際に理事会に参加してみると、我が国の微生物学関連学会は統合性に欠け、外からその活動が見えない状況にあることがますます強く感じられた。連盟設立の案が浮上してきたが、学術会議の改組もあって微研連の中では決着がつかず、学術会議の改組後総合微生物科学分科会(基礎生物学委員会・応用生物学委員会・農学基礎委員会合同)とIUMS分科会(基礎生物学委員会・農学基礎委員会・生産農学委員会・基礎医学委員会・臨床医学委員会合同)は、合同で分科会を開催し、上記の微生物学関連の学術団体の連携を検討してきた。そしてIUMS分科会および総合微生物科学分科会の共同で平成19年2月7日、日本微生物学連盟(Federation of Microbiological Societies of Japan: FMS Japan)を設立した。立ち上げメンバーは、筆者(冨田房男)、篠田純男、今中忠行、光山正雄、野本明男、堀井俊宏である。
その目的とするところは、以下の通りである。
- 我が国の微生物学関連学術団体の連携強化と微生物学分野全般に関わる研究及び教育の推進を図り、社会活動を通して我国におけるこの分野の発展に貢献する。
- 我が国の微生物学分野の研究成果の世界に向けての発信に努める。
- 国際微生物学連合(IUMS)における我が国の微生物学関連組織として国際交流に努める。
立ち上げメンバーとして20学会に参加を表明していただき、活動を開始している。本会も重要な立ち上げメンバーである。その最初の大仕事はIUMS2011(札幌)を主催団体として成功させることである。幸いにも学術会議への共同開催の申請も認められ、いよいよその実行に向けて活動することになった。連盟としては、初めての大きな行事が国際会議であることから、さまざまな試行錯誤があると思われるが、実行委員長として何とか成功させたいと実務を開始したところである。
我が国でIUMSの会議が開かれたのは1990年が最後であり、21年ぶりのことになるため、経験者も少なく心配なことも多いが、過去の成功を収めた会合と遜色なく実行すると同時に、我が国の微生物科学およびその応用技術の優秀さを世界に発信したいと考えている。
微生物学すなわちウイルス、細菌、真菌、原虫などを対象とする研究領域は、生物多様性、環境保全、バイオテクノロジー、新興再興感染症、バイオテロなど、関連し合う多くの研究領域を包含している。微生物は、先端生命科学研究の対象として重要であるばかりでなく、地球環境維持など、人類の未来にとっても非常に重要な必須の存在である。実際に、微生物を包括的に研究することの意義は近年ますます高まっている。
そこで2011年には、Bacteriology and Applied Microbiology, Mycology, Virologyの3部会の会合に加えて、これらの部会の共同開催になるブリッジングセッションを多く持つようにすると共に、一般市民に向けてのいわゆる「アウトリーチ活動」を行うように準備している。ここで、微生物科学の基盤生物学としての重要性と我々の暮らしとの係わり合いがよく分かるような企画を考えているところである。
関係者各位のIUMS2011へのご参加を今からお願いしておきます。また、日本微生物学連盟へのご支援・ご協力をお願い申し上げます。
著者紹介 IUMS2011 国内組織委員会(委員長)、日本微生物学連盟(副理事長)、放送大学北海道学習センター(所長)