【随縁随意】副業のすゝめ – 吉田 聡
生物生物工学会誌 第101巻 第4号
吉田 聡
2020年以降、特にコロナ禍になってから、さまざまな職場で働き方改革の議論がなされてきている。オンライン会議の浸透で在宅勤務が普通に行われるようになり、通勤時間が節約でき、その分仕事ができるという話もよく聞く。また、本学会を含めて学術大会がオンラインで行われることが主流となり、遠くまで行かなくても自宅や勤務先で学会に参加できるというメリットもある。一方で、オンライン会議では複数人が同時に発言することができず、またシステムの負荷を考えて画像を出さずに行うことが多いため、参加者の表情が読み取れないといったコミュニケーション上の不便さも指摘されている。さらに、顔を合わせての懇親の場がないため物足りなさを感じたり、特に新しい人脈を作る機会が減ったりしている。今後、会議などはハイブリッドが主流になっていくと思われるが、それぞれの業態にマッチした進化をしていくのだろう。
このように、コロナ禍によりハード面で大きな働き方の変化がみられた。一方、ソフト面、すなわち働く人達の考え方も数年前から変化がみられ、特に若い20、30代の人達は終身雇用に拘らず、仕事が自分に合っていなければ退職して新たな職場に勤めることが普通になってきた。この傾向はコロナ禍により急速に加速してきている。変化する状況を受けて、働く人達のキャリアパスやモチベーションの維持、向上を推進するために、副業を解禁する会社も多くなってきた。以前より大学では優れた発明をした先生がスピンアウトして起業したり、会社でも社内ベンチャーの提案、推進がなされたりしている。会社によっては提案制度があり、採用されればその仕事を本業として行うことができるところもある。ただし、このような会社でも採用されなかった場合はアイデアとしてお蔵入りさせざるを得ない。しかし、副業が認められることで、会社が許可する範囲内であれば、就業時間外で自分のやりたいことを仕事として行うことができるようになった。
不肖、私も2022年2月に技術士(生物工学部門、総合技術監理部門)の資格を活かそうと一念発起して(血迷って)、個人事業主として技術士事務所を開設した。人生100年と言われる時代であり、定年後に年金をいただける歳までは働きたいと考え、会社に在籍中にセカンドキャリアの準備も兼ねて副業を開始した次第である。始めてみてわかったことは、人脈の大切さ、仕事を見つけてくることの難しさとお金(の計算)の大切さである。会社にいれば後者2つは別の部門の方々に担当していただけるが、個人事業主ではすべて自分で行わなければならない。間接部門、事業会社の方々への感謝を身をもって感じている。副業を始めるにあたり、本を読んだり、技術士会が主催する研修に参加したりしてそれなりに準備をしたつもりでいたが、いざ始めてみると準備不足に落ち込んだ。青色申告にすると65万円までの控除が受けられるということ、開業の書類の出し方などは知ってはいたものの、いざ青色申告の勉強会に参加してみると領収書の取り扱い方、経費の分類、帳簿の付け方など知らないことだらけである。ところで、仕事の内容について副業の難しいところは、技術の秘密保持を含めた本業との線引きである。コンサルティングをするにしても、本業の情報はもちろん副業では出せない。本業にも活かせて、ほかの人がやっていないようなニッチな領域を見つけられるか、同業者との差別化がこれからの副業の課題である。いろいろ副業でやりたいことはあるが、もちろん自分一人ではたいしたことはできない。よって、自分にはないものを持っている同業者や同じ考えを持った関係者との協働が必須である。会社内でやりたいことができなかったり、副業を始めるべきかどうか迷っていたりで悩んでいる読者の方がいらっしゃれば、私と同じことをやられてしまうと困ってしまうので複雑な心境ではあるが、まずは副業を始めてみてはいかがだろうか。きっと今まで経験したことのなかった世界が拓けると思う(と信じている)。そして、本業ではできないこと、何か面白いことを一緒にやりましょう。
著者紹介 キリンホールディングス株式会社飲料未来研究所(リサーチフェロー)、SYT吉田技研(所長)