【北日本支部】2020年度オンラインシンポジウム「情報科学を駆使して生命分子を見る・知る・使う」
支部シンポジウムのオンライン開催について
新型コロナウィルスの発生により被害を受けられている方々、対応に苦労されている皆様に心よりお見舞い申し上げます。札幌も厳しい状況が続いており、学会・シンポジウム等が開催できない状態です。このような状況の中、皆様の安全を確保しつつ、研究活動を継続するため、本シンポジウムをオンライン開催とすることにいたしました。実施を支援いただいた関係者の皆様、また本企画に賛同いただいた演者の皆様に御礼申し上げます。オンライン開催では、全国の皆様により容易に参加いただけるというメリットがあります。その反面、演者から参加者の存在が見えにくいです。是非積極的に質問・コメントをお寄せいただきますよう、お願い申し上げます。力を合わせてこの難局を乗り切りましょう!
支部シンポジウム:情報科学を駆使して生命分子を見る・知る・使う
生物工学分野で幅広く行われている物質生産系や生理活性物質などの研究では、様々な酵素、ペプチドなどの生体分子が登場します。これらの生体分子の構造や機能は、構造生物学、遺伝学、生化学などの手法により解析されますが、「実際のところ、細胞の中で何が起こっているのか」を直接知るのは困難で、間接的な情報を組み合わせて推定されているケースが多いと思います。また、近年オミクスなどのビッグデータの取得が盛んになり、我々の利用できる情報量は格段に増えました。一方で、膨大なデータの中から意味・価値のある情報を抽出することの難しさも認識されています。情報科学分野の技術は、これらの課題に対して強力なツールとなることから、近年非常に注目されています。データベースから有用な情報を抽出する手法、生体分子の構造・機能予測など、重要な技術が種々開発されています。しかし、これらの技術について、十分に知らない・関心はあるがしっかり聴いたことがないという研究者も多いのではないかと思います。そこで本シンポジウムでは、生物工学と情報科学の融合分野で研究を推進する若手研究者の方々に、研究の最前線をご紹介いただきます。本企画がドライ・ウェットの融合研究をお考えの皆さんの一助となれば幸いです。
開催日時
講演の動画ファイル・質問に対する答えの掲載期間、コメント・質疑応答の受付期間は以下の通りです。
2020年 7月1日(水)~ 7月17日(金)
質問受付期間:7月1日(水)~ 7月15日(水)
申し込み方法
以下のリンクから、申込みフォームに必要事項を入力してお申し込みください。参加は無料です。本シンポジウムは、生物工学会の会員でなくても、どなたでもご参加いただけます。
申し込み受け付けは終了しました。たくさんのお申込み、ありがとうございました。
Eラーニング教材としてご利用の場合
本シンポジウムを担当の講義の履修生に視聴させる場合、事前に北日本支部シンポジウム担当(松本:)までご相談ください。多くの履修生が一斉にアクセスすると、使用しているサーバーのデータ転送容量を超える可能性があるためです。場合によって、アクセスを分散させる対応をお願いする可能性があります。
シンポジウムの視聴
公開終了しました。たくさんのご視聴ありがとうございました。
動画の保存・転用は禁止です!ご理解・ご協力をお願いいたします。
アクセスが集中するとつながりにくい場合がございます。ご不便をおかけいたしますが、時間を改めてお試し下さい。
プログラム
開会の挨拶 松本 謙一郎 生物工学会北日本支部副支部長 北海道大学工学研究院 教授
演題
1.「配列データマイニングを用いた新規L-アミノ酸酸化酵素群の取得と構造機能解析」
中野 祥吾 静岡県立大学 食品栄養科学部食品生命科学科 助教
現在、データベースに登録されているタンパク質配列数は1億 (RefSeq Accession growthより) を超えており、その数はなおも指数関数的に増加し続けている。拡大を続ける配列データ内には、ファインケミカル合成や特定基質の濃度定量を可能とする、産業応用に適した数多くの新規酵素群が未同定のまま登録されている。これらデータベースに埋もれている新規酵素を合理的に選抜できる、配列データマイニング法の開発により、酵素の産業応用を更に加速できると期待される。
本研究では、スクリーニングにより同定されたL-アルギニン酸化酵素 (AROD) の配列を鋳型とし、独自手法により同定したモチーフ様配列を利用した配列データマイニング法、およびARODホモログ配列を用いたパラログ配列探索を組み合わせることで同定した、新規L-アミノ酸酸化酵素群の取得と構造機能解析について発表する。
2.「分子動力学シミュレーションと機械学習を用いたテトラペプチドの自己組織化能の予測」
来見田 遥一 産業技術総合研究所 人工知能研究センター 産総研特別研究員
ペプチドの自己組織化能を知ることはタンパク質の物性の理解に重要な役割を果たしている。分子動力学シミュレーション(MD)は分子の物性予測に役立つ方法の一つであり、すべての2残基・3残基のアミノ酸からなるペプチドについて自己組織化能がMDによって評価されている。しかし、より長い4残基からなるペプチド(テトラペプチド)は204=16万通りと、とりうる配列が多くすべての予測を行うことは難しい。そこで機械学習を組み合わせることで少数のMDデータで網羅的な予測ができる系を開発した。現在、我々はMDにより予測された数百種類のテトラペプチドの物性を学習データとして、自己組織化能を予測できる機械学習モデルを作成し、16万通りの全てのテトラペプチドの凝集性の評価を行なっている。また、特に自己組織化能の高いペプチドに関しては実験によりその構造や物性について測定し、この MDと機械学習を組み合わせた予測系の有用性を確認した。我々のMDと機械学習を組み合わせた予測法は他の物性評価にも使用可能であり、今後応用が期待される。
3.「転移学習を用いたタンパク質の機能アノテーション予測」
中村 司 東北大学 大学院情報科学研究科 日本学術振興会特別研究員(PD)
タンパク質の機能は多種多様であることが知られている。近年のハイスループットシーケンシング技術の普及を背景として、既知となったタンパク質配列の本数は加速度的に増加している一方で、機能アノテーションが付加されたタンパク質の数はそれから大きく引き離されている。タンパク質の機能を実験的に決定する時間、コスト、人手には限りがあり、加えてその結果を論文からキュレーションし、Gene Ontologyの用語を用いてデータベースに登録する過程にもまた同様に限界がある。こうした背景のもと、タンパク質配列情報のみから機能を推測する手法の開発が行われているものの道半ばである。
昨年、タンパク質ドメインファミリーをタンパク質の配列のみから深層学習を用いて予測する手法が発表され、従来の類似配列検索手法と比較してより正確かつ高速にファミリー予測が可能なことが示された。我々は、先行研究のファミリーについての学習済みモデルを用いて転移学習を行い、機能アノテーション予測を行った。
4. 「多構造マイクロ反復法の開発と酵素反応への応用」
鈴木 机倫 北海道大学 化学反応創成拠点 特任准教授
酵素反応は、人工的に合成された触媒に比べて温和な条件下で選択的に効率的に進行することが知られている。このような酵素が引き起こす現象を原子・分子レベルで解析するために、QM/MM法などの理論的な手法が広く用いられている。しかしながら、対象とする酵素反応によってはタンパク質の大きな構造(周囲構造)変化を伴いながら化学反応が進行する系があり解析に注意が必要である。不十分な周囲構造を用いた反応経路解析は、反応障壁を過大評価や重要な反応経路を見落とす可能性がある。
最近、我々は大規模分子系における低コストで簡便に反応経路解析が可能な多構造マイクロ反復法を提案している。反応経路計算中に複数の周囲構造を考慮することにより大規模な周囲構造遷移の記述が可能である。本発表では、手法の詳細と応用例について説明し、今後の展望も紹介する予定である。
閉会の挨拶 魚住 信之 生物工学会北日本支部支部長 東北大学大学院工学研究科バイオ工学専攻 教授
問合せ先
2020年度日本生物工学会北日本支部 副支部長
北海道大学工学研究院応用化学部門 松本 謙一郎
E-mail: