【関西支部】第110回醗酵学懇話会 – 講演要旨
日時 | 2017年3月3日(金)13:00~18:30 |
---|---|
場所 | 京都市成長産業創造センター(〒612-8374 京都市伏見区治部町105番地) |
参加費 | 1,000円(税込)/学生 無料 |
「清酒製造におけるガスクロマトグラフィによる工程管理方法の開発」
(地独)京都市産業技術研究所 バイオ系チーム 高阪 千尋
昨今、純米酒、吟醸酒などにおいては内外の需要も徐々に拡大し、生産力の強化と品質の向上が求められている。我々は、この課題を解決するため、生産性の向上のカギとなる工程分析技術の研究開発を行っている。清酒の酒質は日本酒度(甘み)、 酸度(酸味)、アミノ酸度(うまみ)で示されているが、酸度で示される有機酸は、リンゴ酸、乳酸、コハク酸等の比率、量で清酒の味に変化を与えるため、その生産管理は特に重要である。一般的な分析方法としては、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による一斉分析法や酵素による個別定量法が主流であるが、HPLCによる分析法は分離や検出感度、前処理、装置にコストがかかる点などに問題があり、酵素法は検体中の有機酸を一斉に分析するには成分毎にコストがかさむ。こういった問題点を改善し、検体中の有機酸を一斉に分析できる方法として、ガスクロマトグラフィ(GC)の利用を検討した。その結果、前処理の最適化により、簡便、迅速に複数種類の清酒の有機酸を定量することが可能となった。GC分析技術の醸造食品分野への導入により、品質と生産性の向上につながることを大いに期待している。
「酒造原料米(11種類)を対象としたプロテオーム解析」
京都府立大学大学院生命環境科学研究科 増村 威宏
米は清酒の主原料の1つでありその重要性は認識されているが、清酒の製造時に米のタンパク質が過剰に含まれると、雑味の原因となる。そのため製造時に外周部を削る精米という行程があり、米由来のタンパク質の含有量を減少させる手法がとられている。本研究では、清酒の主原料である米に着目し、品種や産地が異なる酒造好適米6種類、酒造原料米5種類を対象に、玄米および60%精白米を材料とし、タンパク質を抽出し、1次元目に非平衡等電点電気泳動による分離を行い、2次元目にSDS-PAGEによる分離を行った。2次元電気泳動法を用いて、タンパク質スポットの量的な変動を解析し、変動量の差が大きいタンパク質の同定を行うことを目的として解析を進めた。その結果、原料米に含まれるグルテリン分子種に量的な差があり、その違いが清酒の成分へ影響する可能性があることが示唆された。
「日本酒で乾杯しておくれやす~日本酒でつながる世界~」
月桂冠株式会社 阪本 充
生活環境の変化により飲酒離れが語られるようになって久しく、残念ながら日本酒の国内消費量も減少方向に進んでいます。消費減退に歯止めをかけようと、日本酒の認知度向上と輸出促進を目指して「ENJOY JAPANESE KOKUSHU(國酒を楽しもう)プロジェクト」が発足されました。酒処の京都市においても全国で初めての乾杯条例を発足させるなど日本酒の普及活動が推し進められております。その甲斐もあって、昨今は、弊社の記念館来場者数も増加傾向にあり、特に海外からのお客様の増加は目覚しいものがあります。私たちも、年に数回ですが、海外からの研修生を受け入れる機会もあり、日本酒の人気を肌で感じることが多くなりました。私自身の海外工場(アメリカ・カリフォルニア州)での赴任経験なども交えながら、日本酒の魅力をお伝えできればと思います。
「伝統の技、生酛(キモト)造りへの挑戦」
招徳酒造株式会社 大塚 真帆
生酛造りは江戸時代に確立されたと言われている伝統的な酒造りの手法であるが、日本酒醸造に不可欠な麹菌、酵母菌の他に乳酸菌、硝酸還元菌など数種の微生物の働きを巧みに利用するという複雑な原理ゆえに、ひとつ間違うと腐敗につながりかねない危険を孕んでおり、近代に速醸モトと呼ばれる安全で簡便な醸造方法が編み出されると、多くの酒蔵が生酛造りをやめていった。しかし生酛造りで醸された酒は独特の深みのある味わいを持ち、昨今再び注目されつつある。弊社では平成17年に生酛造りを復活させ、以来毎年一部ではあるが醸造を続けている。生酛造りの巧妙な原理と実際の現場での体験、そしてその魅力について紹介する。
♦ 関連記事:【関西支部】第110回 醗酵学懇話会
⇒関西支部Topへ