【会長挨拶】園元 謙二(2013年6月)
新会長を拝命して
この度、日本生物工学会会長に就任いたしました九州大学大学院農学研究院の園元謙二でございます。90年を超える伝統を誇る由緒ある日本生物工学会の会長の重責を拝命し、身の引き締まる思いがいたします。理事、支部長、代議員をはじめ会員の皆様のお力添えをいただき、本会の発展に微力ながらお役に立ちたいと思っております。
昨年(2012年)、原島 俊前会長の指揮の下、学会創立90周年記念事業が成功裏に終わりました。90周年を迎えられたのは、ひとえに先達の弛まぬ努力のおかげであると思います。本事業の終了報告については学会のHPに掲載されています(https://www.sbj.or.jp/about/about_90th_anniversary_message.html)。ここでは、まずは100周年に向けて確固とした礎を築いていくために、90周年記念事業の中で興味深いものを振り返り、100周年への俯瞰的行動目標を述べたいと思います。
さまざまな90周年事業の中で、記念出版の一つである『ひらく、ひらく「バイオの世界」―14歳からの生物工学入門』は全国のスーパーサイエンスハイスクールおよび県庁所在地の県立図書館などに寄贈され、公益法人として一つのエポックとなりました。残りの事業、特に継続事業のための基金を有効活用することは本会の一層の充実と発展、会員の学術活動に貢献するために重要です。たとえば、生物工学学生優秀賞(飛翔賞)は、大学院博士後期課程(あるいは同等な課程)に進学(予定)の学生会員の中から、各支部から推薦された優秀な大学院生に与えられるもので、100周年までに50–60名の受賞者が生まれます。彼らが学生会員の中核として学会を牽引し、さらに博士号取得後、若手正会員として活躍す ることが大いに期待されます。ホットな若手が各会員層と交流し、更なる活性化の一因となることを願っています。このように、今後10年間は90周年記念事業計画が続いていきます。
また、新たなスタートの際、まずは本会が置かれている状態を俯瞰し、足元を見据えた行動目標が必須と思われます。たとえば、日本は世界に例を見ない人口の減少と高齢化が始まっています。2012年では60歳以上で働いている人(就業者数)の全就業者に占める割合は約5人に1人となりました。一方、若い世代の働き手の割合が2007年ごろから減っており、今後はこの減少率がさらに高まる見通しです。中でも15–29歳の若手はこの10年間で約25%減少しました。シニア層の活用は日本経済の活性化や再生のために重要な課題ですが、65歳を過ぎると多くのシニアが引退します。すなわち、日本の就業者数の減少はもはや避けられません。本会の正会員数もこれに呼応するように2007年の約2500名から漸減しており、他の学会でも同様の傾向が見受けられます。一方、学生会員数は年次大会前後の入退会のサイクルがあるものの増加傾向にあります。これは学会の事業活動収入の内、大きな割合を占める会費収入に大きな影響を与えます。また、他の収入である英文誌出版補助金などもいつまでも継続する保証はないことも直視すべきです。会員データベースを詳細に分析し、対策を練る必要があります。
飯島信司元会長の執行部のご尽力で本会は2011年4月1日、公益社団法人に移行しました。これは、公益法人制度改革に関連する法令(2008年12月1日施行)に対応したものです。公益社団法人として満たすべき主たる要件は、公益目的事業比率が全支出の50%以上であることです。本会の場合、公益目的事業とは学術及び科学技術の振興を目的とする事業で、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与すべきものですが、要は、受益の機会が一般に開かれているかどうかを基本としています。この2年間の本会の事業を精査し、学会として社会にどのように貢献しているのか検証するとともに、広く社会や産業界での足場を強化するよい機会としたいと願っています。その意味で、前述した90周年事業の記念出版は中山 亨理事(生物工学教育担当)はじめ関係各位のご尽力の賜物です。また、公益社団法人であることにより、個人、法人からの寄付の受入について税法上の優遇があることは、今後の学会の運営にとって大きな利点であります。いずれにせよ、今後、具体的な戦略・戦術が必要と感じています。
このような背景から、今後10年間の行動目標を以下の3つに絞りたいと思います。ぜひご意見など賜りたいと思います。
- 学会を維持運営するための財政基盤の確保(財政健全化)
- 公益目的事業の企画・明確化と寄付文化の醸成(公益と寄付)
- 年代・職種が異なる会員間の交流促進(交流・連携)
さらに、今期2年間の具体的な課題を立てる必要があります。これまでの執行部のさまざまな改革の基本方針と成果の上に、新たな将来設計を立てるのは必然です。たとえば、過去2年間の原島前会長の執行部(私は副会長を拝命)では、3つの運営目標、「学から産へ」「シニアから若手へ」「国内からアジアへ、そして世界へ」を設け、着実な学会発展を築いてきました。これらの運営目標も歴代の執行部の未解決課題を俯瞰し、選択しながらまとめあげたものです。今期は以下のような7つの課題に重点的に取り組みたいと考えています。
- 斬新な学会活動の企画(本部と支部の連携も強化)
- 産学連携の推進(産と学による新たなバイオ産業創成)
- 地域社会への貢献(地域連携シンポジウムの企画)
- 会員サービスと事業活動の積極的な広報(電子情報化のさらなる推進、和文誌の充実)
- 国際交流、国際展開の推進(プレゼンスの向上、英文誌の充実)
- バイオ産業を担う学生の教育活動の推進(産学連携などとも協力した人材教育)
- 若手会員の学会運営への参画促進(理事補佐制度などを活用)
以上、3アクション+7テーマ(3+7)について述べてきました。このような取組みを行うために、幸いにも五味勝也(東北大学)、倉橋 修(味の素)両副会長をはじめ強力な理事の方々に就任いただきました。HPの組織図をご覧ください(https://www.sbj.or.jp/about/about_organization.html)。これは原島前会長が課題解決のために最近とりまとめたもので、歴代の執行部の改革の積み重ねの歴史を窺い知ることもできます。理事補佐制度も昨年度より開始し、「生物工学を志向する若い世代の育成」の一貫としています。また、今期は、庶務・会計を一体にした職制を新設し、各副会長の下に配置して即応・柔軟な運営ができるようにしました。さらに、各職務2人制の理事とし、職務の継続性と理事の負担軽減を見据えた組織としました。組織を動かすのは人ですが、理事職は見返りのないボランティア活動です。理事の方にも達成感と充実感を味わっていただき、かつ会員の皆様全員の共感を生むような学会運営を心がけたいと思います。会員の皆様だけでなく事務局の皆様のご協力をお願い申し上げますとともに、忌憚のないご意見ご助言をお願い申し上げます。
最後に、最近、学会とは何かを考えることが多くなりました。若い頃の学会の思い出は、さまざまな「触発」を受け、精神的充実感のような魔物に魅了されていたような気がします。個性豊かな同期・先輩・先生方に囲まれ、楽しい思い出が尽きません。学会の役割について、年代や所属する組織などによって異なる考えがあってもよいと思います。むしろその多様で異質な考えが交わり合って、新しい活力となるように願っています。ヘテロであればこそ発展が望めると思っています。また、最近はどの組織でも若手育成が叫ばれ若手に期待が集まる傾向でそれは大切なことですが、シニアもミドルも人材育成という使命だけにとらわれず、自らも高揚できるようにもっとがんばってもらいたい!若い人にはない経験という熟練の技をぜひ若手と交流しながら伝え、互いに異質であってもいろいろな夢を描いていってほしい。そのような出会いの環境を提供するのが執行部の役割のひとつとも思っています。杯を交わし合い、ヘテロな人たちが自由に発言し意見交換できるすばらしい学会を目指していきたいと願っています。
2013年6月
日本生物工学会会長
園元 謙二