【会長挨拶】原島 俊(2011年6月)
学会創立90 周年から 100 周年への飛躍を目指して
生物工学会誌 第89巻 第6号
日本生物工学会会長 原島 俊
このたび、思いもかけず日本生物工学会会長を拝命致しました大阪大学大学院工学研究科の原島 俊でございます。
去る3月11日の千年に一度とも言える未曾有の大震災によって、ご自身、あるいはご家族など身近な方々が被災をされた会員の皆様には心よりお見舞いを申し上げます。また、一日も早い復興がなされることを願う次第です。本会も、ささやかですが、すでに、被災をされた会員の皆様の年会費免除や被災学生の大会参加費特別免除などの措置をさせて頂きました。
生物工学会は、大阪醸造学会の40年、日本醗酵工学会の30年、日本生物工学会の20年を経て、2012年には創立90周年を迎えます。本会創立の端緒となった大阪高等工業学校醸造会の設立(1910年、明治43年)から数えれば、実に100年の歴史を誇る学会であります。そうした歴史ある学会の会長を拝命致しましたことは、誠に身に余る光栄ではありますが、同時に、その使命と責任の重さで息苦しい気持ちであることも吐露しなければなりません。しかし、園元謙二(九州大学大学院教授)、柳 謙三(元サントリーホールディングス常務取締役、前サントリー生命科学財団理事長)両副会長をはじめ、27名の理事の方々とともに、本会のますますの発展に尽くすべく、微力ながら一生懸命努力したいと考えておりますので、会員の皆様方には、ご協力とご鞭撻の程どうか宜しくお願い申し上げます。
さて私は、飯島信司前会長の執行部で副会長を仰せつかっておりました。その私が、このたび会長を拝命致しましたことは、会員の皆様方が、前会長の方針を引き継いで、これからの2年間本会をさらに発展させることに尽力すべきであると激励して下さっていることと理解しています。前執行部ではいろいろな改革を進めてまいりました。そのひとつは4月1日をもって設立登記を行うことができました本会の公益社団法人化であります。この公益法人化によって生物工学会は、これまでにも増して学会として社会にどのように貢献していくかが問われることになりますが、同時にこのことは、生物工学会に、これまで以上に社会や産業界に貢献するチャンスが与えられたことを意味するものとも思っています。
前執行部では、学会の組織についても改革を進めました。たとえば産学官連携の強化を推進する「産学連携委員会」や、学会活動をさらに魅力的なものにするための「企画委員会」を設置することに致しました。さらに本会が、日本技術者教育評価機構(JABEE)生物工学分野の主幹学会であり、関連諸学会を束ねてきたことにも鑑み、教育担当の理事を新設し、これまで以上に我が国における生物工学教育を主導的に進める体制を整えました。これらは、学会改革のいくつかの例に過ぎませんが、こうした改革の基本方針を引き継ぎ、その実効を上げ、学会創立100周年に向けてアジアはもとより世界のバイオテクノロジーをリードする学会としての礎を確立することが、今期の執行部に課せられた使命であると認識しています。こうした使命のもとで、今期は以下のような7つの課題に重点的に取り組んでまいりたいと考えています。
- 学から産へ、
-公益社団法人として社会へのさらなる貢献を目指して-
1) 学会創立90周年記念事業の実施とそれを契機とした、創立100周年に向けての学会発展基盤の確立
2) 産業や社会と密接に関係する産業バイオテクノロジーの学会としてのアイデンティティーの明確化
3) 生物工学基礎学と産業応用について、和文誌「生物工学会誌」を通した社会、市民へのup to dateな情報の発信
- 国内からアジアへ、そして世界へ、
-世界に向けた生物工学会のプレゼンス向上を目指して-
4) 英文誌「Journal of Bioscience and Bioengineering」を主軸とした国際展開の加速
5) アジア諸国の関連学会との友好と連携におけるリーダーシップの発揮
6) 我が国および世界における生物工学技術者教育の先導
- シニアから若手へ、
-学会発展と社会貢献の要、世界をつなぐ人材育成を目指して-
7) 生物工学を志向する若い世代の育成
1)については、創立90周年記念事業が一過性のものにならず、10年後の学会創立100周年に向けた基盤となるべきものにしたいと思っています。
2)については、工学バイオはもとより、農学バイオ、医学バイオ、海洋バイオ、環境バイオなど多様化するバイオテクノロジーのどのような分野においても、工学的なアプローチや展開を特色とする本会のアイデンティティーを大切にしたいと思っています。この思いの中には、本会のルーツでもある醸造工学、発酵工学、培養工学などの伝統的な学問分野も大切にする気持ちも含まれています。
3)については、英文誌とともに本会の主要な情報発信源である和文誌を活用して、市民社会、産業界との関わりをさらに充実させたいと考えています。すなわち、「学から産へ」は、これまでのように学や官を大事にしつつ、同時に産や社会をこれまで以上に意識して学会活動を展開するということであります。
4)については、世界に数多くあるバイオテクノロジー関連国際専門誌の中で、JBBがトップの位置であり続けるべく努力を惜しまないつもりです。
5)については、中国や韓国のバイオテクノロジー関連学会が台頭、発展しつつある昨今の情勢を十分に把握し、友好的な連携の中にもリーダーシップを発揮できるような道筋を見失わないようにしなければと思っています。
6)は、今後、生物工学が扱う科学の分野や技術の領域がますます拡大発展していくことを見据えつつ、生物工学とはどのような学問かを確立するために、我が国だけでなく、世界の中の生物工学教育の発展をリードする学会としての役割を果たしていきたいと考えています。「国内からアジアへ、そして世界へ」は、あらゆることが、グローバル化する流れの中で、これまで以上に常に世界を意識して、先導的な学会運営をしなければという覚悟であります。
7)については、学会の将来に関わる重要な事項であり、産官学のそれぞれに所属する大学院生を含む若い世代がのびのびと活躍できる学会の雰囲気をこれまでにも増して醸成したいと思っています。この思いの中には、学会活動への女性の積極的な参加による学会の変貌、あるいは中高校生までも視野に入れた人材育成、啓発活動も含まれています。また次世代を担う人材を育成することは、学会発展に不可欠な要素であるのは疑いのないことかと思いますが、同時に社会貢献そのものでもあります。すなわち、「シニアから若手へ」は、少し大げさかもしれませんが、シニアを大切にしつつ、創立100周年からその後の一世紀(100年)の間に、生物工学会がどのように変貌を遂げていくべきかについて、若い方々が壮大な夢を持って語ることができるような学会の基盤作りをしたいという思いも込めたつもりです。
言うまでもなく、こうした学会の発展の意図するところは、会員の皆様のための発展ということであります。会員の皆様の満足なくして学会の発展はあり得ません。すなわち賛助会員、団体会員は申すまでもなく、シニアから若手、そして学生会員に至るまで、会員の皆様全員が会員であることに満足して頂ける学会、そして生物工学会の会員であることを誇りに思って頂けるような学会にしていかなければと思っています。
上記の目的は、当然ながら3500有余名の会員の皆様方それぞれのレベルでのご活躍、支部による活発な活動、研究部会の活動、団体会員あるいは賛助会員による精神的あるいは財政的な援助など、あらゆるレベルでの強力なご支援がなければ到底果たしていくことはできません。皆様の絶大なご協力とご鞭撻を切にお願い申しあげ、会長就任の挨拶とさせて頂きます。
2011年
日本生物工学会会長
原島 俊